研究課題/領域番号 |
19H05643
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉村 崇 名古屋大学, 生命農学研究科(WPI), 教授 (40291413)
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研究分担者 |
大川 妙子 (西脇妙子) 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30432230)
中根 右介 名古屋大学, 生命農学研究科(WPI), 特任講師 (40792023)
大竹 愛 (四宮愛) 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 特任助教 (60452067)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 光周性 / 季節適応 / メダカ / ケミカルゲノミクス |
研究実績の概要 |
動物は日照時間や温度の変化を感知し、様々な生理機能や行動を変化させることで、環境の季節変動に巧みに適応している。カレンダーを持たない動物がこれを成し遂げる仕組みは謎である。本研究では洗練された季節適応能力を持ち、緯度によって遺伝的に異なる季節適応戦略を身に着けたメダカをモデルとして、動物の季節適応戦略を解明することを目的とした。まず、高緯度と低緯度に由来するメダカでは日長や温度を感知する仕組みが遺伝的に異なることを見出し、遺伝解析によって臨界日長、臨界温度を制御する量的形質遺伝子座(quantitative trait loci: QTL)を染色体上にマップした。その後、臨界日長、臨界温度が異なる10個の集団に由来する32個体について全ゲノム配列を解読し、QTL領域に存在する遺伝子群について、アミノ酸多型、フレームシフトの有無を明らかにした。さらに臨界温度を制御する候補遺伝子については、機能解析を行った。また、屋外の自然条件下で飼育したメダカから視床下部および下垂体を2年間にわたって採材し、RNA-Seq解析を行い、バイオインフォマティクスを駆使して年周変動する遺伝子をゲノムワイドに同定した。 高緯度地域では、冬季にうつ病を発症する冬季うつ病が社会問題になっているが、その発症機構は不明である。そこでその発症機構を解明するとともに、これを制御する分子を開発することを目的とした。まず、夏の環境においたメダカに比較して、冬の環境においたメダカにおいて社会性が低下し、不安様行動が増加するという、冬季うつ病に類似した表現型を見出した。次に冬と夏のメダカの脳についてトランスクリプトーム解析、メタボローム解析を実施するとともに、既存薬を用いたスクリーニングを実施し、ケミカルゲノミクスのアプローチから、冬にうつ様行動を引き起こす情報伝達経路を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(研究1)日長測定機構の解明を通じた季節適応機構の解明、(研究2)臨界温度の制御機構の解明を通じた季節適応機構の解明、(研究3)様々な生理機能の年周リズムの駆動機構の解明、(研究4)冬のうつ様行動を引き起こすメカニズムの解明とその制御、の4つの研究を計画していたが、いずれの研究もおおむね計画通りに進展した。 ただし、研究2の臨界温度を制御すると考えられた候補遺伝子については、親系統についてそれぞれ候補遺伝子産物を発現・精製し、円偏光二色性スペクトル測定を用いて熱安定性を評価するとともに、酵素活性を様々な温度で測定したところ、当初の予想に反して表現型の異なる二つの親系統間で、熱安定性も酵素活性も大きな違いが認められなかった。この点に関しては発現量の違いが表現型の違いをもたらしている可能性を検証するとともに、別の候補遺伝子が関与している可能性についても検討している。
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今後の研究の推進方策 |
(研究1)日長測定機構の解明を通じた季節適応機構の解明と、(研究2)臨界温度の制御機構の解明を通じた季節適応機構の解明については、引き続き候補遺伝子の検証と機能解析を続けていく。またそれらの遺伝子の違いが動物の季節適応に及ぼす影響を検討するための共通圃場実験については予備実験を実施する。(研究3)様々な生理機能の年周リズムの駆動機構の解明については、冬至、春分、夏至、秋分において、それぞれ採取した時系列サンプルについてRNA-seq解析を行い、それぞれの季節に活性化あるいは抑制されている情報伝達経路を明らかにする。(研究4)冬季のうつ様行動を引き起こすメカニズムの解明とその制御についてはメダカで明らかにした仕組みを哺乳類においても検証する。
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