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2022 年度 実績報告書

光のリアルタイム時空間操作による行動制御機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 19H05644
研究機関名古屋大学

研究代表者

森 郁恵  名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (90219999)

研究期間 (年度) 2019-06-26 – 2024-03-31
キーワード神経回路 / 動物行動 / 光遺伝学 / 光操作技術 / C. elegans / 細胞間コミュニケーション / 温度走性
研究実績の概要

本研究は、リアルタイム光操作技術を開発し、感覚ニューロンの活動が行動に変換されるまでのプロセスを明らかにすることを目指している。 自由行動中の線虫を追尾し、蛍光イメージングと光刺激を行うシステムの開発を進め、行動および神経活動の解析を遂行中である。また、特定のニューロンの活性を操作しながら多個体の線虫の行動を計測するシステムを開発し、行動解析を進めている。さらに、時間的に変動する温度刺激を線虫に与えながら行動を計測するシステムを開発し、温度刺激依存的な行動解析を行った。その結果、温度感覚ニューロンAWCが、温度刺激のもとで行動のゆらぎの制御に関わることを見出した。また、AWCは下流の神経活動パターンにばらつきをもたらしていることを示唆する結果が得られた。
順遺伝学的スクリーニングにより、温度情報処理に関わる因子を発見した。Obg-like ATPase (OLA-1)が線虫の摂食経験と飼育温度を連合させる上で重要な役割を果たしていることを明らかにし、OLA-1が温度感覚ニューロンAFDと介在ニューロンAIYの活動同期の制御に関与していることを見出した。また、microtubule-associated serine threonine kinaseの線虫ホモログをコードするkin-4が、線虫の高温側および低温側への移動の両方を制御する因子であることを明らかにし、ストマチンの線虫ホモログをコードするmec-2の変異体が示す好熱性異常がCREB転写制御因子の線虫ホモログをコードするcrh-1の機能喪失型の変異によって抑制できることも発見した。また、mec-2とcrh-1はAIYの神経活動を制御していることを見出した。
温度感覚ニューロンAFDにおいてcGMPシグナルの計測にも成功し、cGMPシグナルが飼育温度に依存して温度上昇と温度下降の両方に応答することがわかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

光遺伝学を用いて温度感覚ニューロンAFDを活性化させ、それによって引き起こされる行動パターンを計測するシステムを開発し、数十個体の線虫の姿勢と行動履歴を追跡することが可能となった。また、このシステムで得られた行動時系列を数理的に解析するためのプログラムの作成に取り組んだ。さらに、時間的に変動する温度刺激を線虫に与えながら行動を計測するシステムを開発し、温度刺激依存的な行動パターンの解析を行った結果、温度感覚ニューロンAWCが、温度刺激のもとで行動のゆらぎの制御に関わり、さらにAWCは下流のニューロンの活動パターンにばらつき(個体差)をもたらしていることを示唆する結果が得られた。
順遺伝学的スクリーニングにより、Obg-like ATPase (OLA-1)が線虫の摂食経験と飼育温度を連合させる上で重要な役割を果たしていることを明らかにした。また、microtubule-associated serine threonine kinaseの線虫ホモログをコードするkin-4が、線虫の高温側および低温側への移動の両方を制御する重要な因子であることを明らかにした。また、ストマチンの線虫ホモログをコードするmec-2の変異体が示す好熱性異常がCREB転写制御因子の線虫ホモログをコードするcrh-1の機能喪失型の変異によって抑制されることを発見した。カルシウムイメージングにより、mec-2とcrh-1は介在ニューロンAIYの活動を制御していることを見出した。さらに、温度感覚ニューロンAFDにおいてcGMPシグナルの計測にも成功した。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)ベースのcGMPプローブをAFDに発現させて蛍光強度変化を計測したところ、cGMPシグナルが飼育温度に依存して温度上昇と温度下降の両方に応答することがわかった。

今後の研究の推進方策

これまでに開発を進めてきた光操作技術とイメージングシステムによって、神経突起でダイナミックな応答を示すニューロンの活動計測が可能になってきているため、温度感覚ニューロンAFDが活性化した際のこれらの下流のニューロンの応答パターンを計測・解析する実験を進める。下流のニューロンの一群は、細胞体ではカルシウムの変動が見られず、その神経突起において顕著な活動を示すため、それらを計測・解析することで、感覚情報処理と行動制御の背後にある新規な神経動態を明らかにできる可能性がある。さらに、これまでに開発を進めてきた多個体の行動アッセイシステムを用いて、温度感覚ニューロンAFDの活性化によって引き起こされる行動のパターン、および統計的性質を明らかにする。さらに最近、我々はニューロン以外の細胞や組織が、線虫の温度情報処理に関与していることを見出している。そこで、非神経細胞(皮膚細胞)の行動制御への関連を明らかにするため、光駆動性チャネルを非神経細胞に遺伝子導入する試みを現在行っている。この実験をさらに進め、非神経細胞がどのように行動制御に関与するかを調べる。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] AWC thermosensory neuron interferes with information processing in a compact circuit regulating temperature-evoked posture dynamics in the nematode Caenorhabditis elegans2023

    • 著者名/発表者名
      Kano, A., Matsuyama, HJ., Nakano, S., Mori, I.
    • 雑誌名

      Neuroscience Research

      巻: 188 ページ: 10~27

    • DOI

      10.1016/j.neures.2022.11.001

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 線虫を使った最新の神経行動生物学 Systems neuroethology using Caenorhabdits elegans2023

    • 著者名/発表者名
      塚田祐基
    • 雑誌名

      月刊「細胞」

      巻: Vol.55 No.8 ページ: pp4-7(560-563)

  • [雑誌論文] cGMP dynamics that underlies thermosensation in temperature-sensing neuron regulates thermotaxis behavior in C. elegans2022

    • 著者名/発表者名
      Aoki, I., Shiota, M., Tsukada, Y., Nakano, S., Mori, I.
    • 雑誌名

      PLOS ONE

      巻: 17 ページ: e0278343

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0278343

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Genetic screens identified dual roles of microtubule-associated serine threonine kinase and CREB within a single thermosensory neuron in the regulation of <i>Caenorhabditis elegans</i> thermotaxis behavior2022

    • 著者名/発表者名
      Nakano, S., Nakayama, A., Kuroyanagi, H., Yamashiro, R., Tsukada, Y., Mori, I.
    • 雑誌名

      G3 Genes|Genomes|Genetics

      巻: 12 ページ: jkac248

    • DOI

      10.1093/g3journal/jkac248

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] OLA-1, an Obg-like ATPase, integrates hunger with temperature information in sensory neurons in C. elegans2022

    • 著者名/発表者名
      Aoki, I., Jurado, P., Nawa, K., Kondo, R., Yamashiro, R., Matsuyama, HJ., Ferrer, I., Nakano, S., Mori, I.
    • 雑誌名

      PLOS Genetics

      巻: 18 ページ: e1010219

    • DOI

      10.1371/journal.pgen.1010219

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] Social contexts shape a decision-making through a gap junctional network in C. elegans2023

    • 著者名/発表者名
      中野俊詩
    • 学会等名
      新学術領域「脳情報動態」第3回国際シンポジウム
    • 国際学会
  • [学会発表] Decoding a compact neural circuit of Caenorhabditis elegans2023

    • 著者名/発表者名
      Yuki Tsukada
    • 学会等名
      Neural Coding and Combinatorics
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Interdisciplinary approach to dissect animal behavior2022

    • 著者名/発表者名
      Ikue Mori
    • 学会等名
      DonMoerman Symposium
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Genetic mechanisms of Caenorhabditis elegans isothermal tracking behavior2022

    • 著者名/発表者名
      黄子庭
    • 学会等名
      NEURO2022
    • 国際学会
  • [学会発表] UNC-7/イネキシンによる線虫 C. elegans の温度情報伝達制御機構2022

    • 著者名/発表者名
      中山愛梨
    • 学会等名
      NEURO2022
    • 国際学会
  • [学会発表] A Non-Cell Autonomous Action of cGMP within Multi-Neuronal Network Regulates a C. elegans Navigation Behavior2022

    • 著者名/発表者名
      中野俊詩
    • 学会等名
      NEURO2022
    • 国際学会

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公開日: 2024-12-25  

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