研究課題/領域番号 |
19H05647
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐甲 靖志 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (20215700)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
|
キーワード | 受容体 / 1分子計測 / 細胞内情報伝達 / 細胞膜 |
研究実績の概要 |
本研究は、最新の1分子計測法などにより、ヒトの主要な膜受容体 (GPCR, RTK) のほぼ全ての分子種について近傍脂質を含めた機能・構造動態の計測・解析を行い、膜の自己組織化による機能制御機構を明らかにすることを目的とする。最近の研究は、膜受容体が機能発現と共に近傍の膜環境を作り替えること、逆に受容体近傍膜環境変動が受容体の構造・機能を制御することを示している。その過程には、エネルギー依存・非依存両者の自己組織化現象が関わっていると考えられる。研究は下記4項目とそれらの統合的な解釈で構成される。本年度の進捗は以下の通りである。 1.膜受容体の細胞膜動態の網羅的な1分子計測:ヒトGPCR 340種、RTK 53種の遺伝子クローニングとHalo-tag融合発現ベクター構築を行い、RTKについてはそれらを安定発現するノックイン細胞(HEK293)を作成した。細胞内cAMPおよびCa動態に基づいて、各受容体の分子機能を評価する方法を確立した。また、既設の自動化1分子計測システムを改良して計測の安定性を高めると共に、新たに2台の装置の増設を開始した。 2.膜脂質と受容体の超解像可視化:RTKの一種EGFRとPS, PIP2の共局在計測を行い、受容体の活性化による周辺膜脂質の分布変化を明らかにした。 3.膜受容体の境界脂質の分析:細胞膜から特定受容体周りの脂質をSMAナノディスクとして切り出し、受容体に融合したtagを利用して精製する方法の検討を進めた。10 cm dish 5枚程度の細胞から精製したディスクをTLC分析し、主要なリン脂質のhead groupやコレステロールの分析が可能であることを確かめた。 4.再構成膜における膜受容体の脂質制御の解析:EGFRの膜内・膜近傍ペプチドの2量体化に対するコレステロールおよび酸性脂質の効果を、1分子FRET計測により明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究はどの項目も概ね順調に進行している。1分子計測は網羅的な自動計測へ向けた準備が今年の目標であった。試料調整については、RTKの安定発現株作成まで進行し、予定以上に進捗した。顕微鏡装置の作成は自動焦点装置の導入に手間取り、研究費の繰り越しも行ったが、2020年4月には、既に発注可能な段階に達している。超解像法による受容体と脂質の相互作用計測は、EGFRに関して、受容体の周辺脂質書き換えによる自己制御機能が明らかになり、近日中には論文作成に取りかかる。生細胞における受容体、脂質の1分子動態と、固定細胞におけるそれらの超解像計測の結果が矛盾なく統合できたことは、よい知らせである。また、イオンチャネルに関しても類似の現象が見つかりつつある。SMAナノディスク法は技術情報が少なく、試行錯誤を続けているが、ある程度の細胞数から出発すれば脂質分析が可能であることがわかった。脂質抽出時の損失が回収率を決めているが、工夫してあと2,3倍収率を増加させれば、網羅的計測が容易になる。行程を改良する余地はあるので、おそらくは実現可能である。SMPナノディスクを用いた完全な再構成膜中での受容体・脂質相互作用の研究にも進捗があり、こちらは論文作成中である。再構成膜作成には受容体を精製する必要があるが、RTKについてはHalo-tag融合体の安定発現細胞が採れているので、アフィニティー精製が可能になった。その他特筆すべきこととして、ある種のGPCRの運動からシグナルバイアスを検出できることが明らかになり、こちらも論文作成を開始している。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は以下の様な研究計画で、各研究項目をさらに進捗・発展させる予定である。 1.膜受容体の細胞膜動態の網羅的な1分子計測:GPCR, RTK に HaLo蛋白質標識を行い、HEK293細胞に発現させて蛍光標識し、蛍光1分子可視化法を用いて受容体の側方拡散運動と会合状態を計測する。GPCRに関しては拡散動態から受容体の複数の機能状態に関する情報が得られる見通しが立ってきた。本年度はこの計測・解析法を確立する。RTKは各々の機能確認を行い、網羅的運動計測を開始する。 2.膜脂質と受容体の超解像可視化:EGFRとPS, PIP2の機能依存的な共局在変化の計測結果を詳細に解析し、外部発表する。3色のPALM/STORM法を、網羅的な受容体・脂質相互作用の計測へ応用するため、自動的な顕微鏡観察を実現する。多色の超解像観察の成否は画像間の位置合わせ精度に依存している。位置合わせのマーカー導入法を開発することが重要である。 3.膜受容体の境界脂質の分析:特定受容体の境界脂質を精製するために、受容体に融合した精製タグを利用しているが、His-tagでは脂質抽出時の損失、Halo-tagではtagと精製用リガンドの相互作用効率の低さが収率を制限している。各ステップの方法を変更し収率を改善する。TLC分析から、より解像度の高い質量分析法に変更することを計画している。また、ディスク膜中で1分子計測を行うための試料作成法を検討する。 4.再構成膜における膜受容体の脂質制御の解析:2020年度はEGFRの膜内・膜近傍ペプチドの多量体化に対するコレステロールおよび酸性脂質の効果が明らかになってきた。全長蛋白質の再構成系で同様の脂質制御が見られるかを検討する。
|