研究課題/領域番号 |
19H05648
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
遠藤 玉夫 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, シニアフェロー (30168827)
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研究分担者 |
田村 純一 鳥取大学, 農学部, 教授 (30221401)
加藤 龍一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (50240833)
山口 芳樹 東北医科薬科大学, 薬学部, 教授 (90323451)
小林 千浩 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (90324780)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 糖鎖 / 糖アルコール / 筋ジストロフィー |
研究実績の概要 |
本研究では、新たな翻訳後修飾体としてのリビトールリン酸(RboP)の生物学的意義を確立することを目的とする。代表者らは、哺乳類のO-マンノース(Man)型糖鎖にリビトールリン酸が含まれることを発見し、その修飾酵素FKTNとFKRPを同定した。O-Man型糖鎖は構造の特徴によりコアM1、コアM2、コアM3の3タイプに分類され、そのうちコアM3糖鎖のみに2個のRboPのタンデム構造(RboP-RboP)が含まれる。このタンデム構造はRboP転移酵素FKTNとFKRPによりCDP-リビトール(CDP-Rbo)からRboPが転移され形成される。FKTNとFKRPはα-ジストログリカノパチー(先天性筋ジストロフィー症)の原因遺伝子産物であり、コアM3糖鎖の合成不全が主因となる。本年度は、2つめのRboPを転移するFKRPのX線結晶構造の解明に成功し、基質認識機構と患者変異による影響を明らかにした。結晶構造からFKRPは幹領域と触媒領域に分けられ、幹領域を介して四量体を形成していた。FKRPの基質には2つのリン酸基(RboPとManP)が含まれ、基質との共結晶解析から、基質の認識には2分子のFKRPが必要であり、一方の分子の幹領域でManPのリン酸を認識し、もう一方の分子の触媒領域でRboPのリン酸を捕捉することが明らかとなった。さらに、α-ジストログリカノパチー患者の変異(Y88F,S221R,L276I)を導入した変異型FKRPはゲル濾過クロマトグラフィーで低分子量画分に検出され、四量体を形成できないことが示された。変異型FKRPの酵素活性は野生型に比較して顕著に低く、変異による四量体形成の阻害が酵素活性減少の原因となることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
O-Man型糖鎖合成関連酵素の構造解析研究において、本年度はFKRPの結晶構造の解明に成功し、順調に進捗している。FKRPの酵素活性に、コアM3糖鎖の2個のリン酸との相互作用が必要であることなど、O-Man型糖鎖の生合成の新たなメカニズムが明らかとなった。こうした結晶構造解析による基質認識機構の解明は、O-Man型糖鎖がどのような構造の糖鎖あるいはタンパク質の上に合成されるのかを調べる上で重要な知見であり、また、変異による疾患発症のメカニズムを理解する上でも重要である。これらの成果はマスコミの興味を引き3紙で取り上げられた。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度に引き続き、以下の実験を行う。 ・RboP-RboPタンデム構造の物理化学的解析を行うために、すでに合成が完了しているXyl-RboP-RboやXyl-RboPをコア骨格としてXyl-RboP-RboP-GalNAc、Xyl-RboP-GalNAc、RboP-RboP-GalNAcなどを合成する。これらのタンデムRboPの物理化学的特性を明らかにするために、RboやRboPおよび合成糖鎖のコンフォメーションと運動性に関する知見をNMRおよび計算化学の手法により得る。 ・関連酵素の結晶構造解析研究では、FKTNとTMEM5の結晶構造の解明を目指す。FKTNはFKRPの相同分子であることから、FKRPの構造情報と比較することで、基質特異性などの機能的な差異や共通性について構造生物的な解析を進める。 ・RboPの供与基質であるCDP-RboはISPDによってRboPから生合成される。RboPの生合成経路は不明であることから、RboP代謝に関わる酵素の同定を目指す。ISPD欠損細胞のトランスクリプトーム解析から想定された候補分子について検討する。 ・FKTNおよびFKRPによるRboP転移反応はゴルジ体内腔で行われるため、細胞質で合成されたCDP-Rboはゴルジ内腔へ輸送される必要がある。CDP-Rboのトランスポーター活性は証明されていないため、CDP-Rboトランスポーターの活性測定法を確立し同定を目指す。
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