研究課題/領域番号 |
19H05649
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山本 雅之 東北大学, 医学系研究科, 教授 (50166823)
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研究分担者 |
田口 恵子 東北大学, 医学系研究科, 講師 (20466527)
鈴木 隆史 東北大学, 医学系研究科, 講師 (70508308)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | Keap1 |
研究実績の概要 |
私たちは常に外界からのストレスに曝されており、それに対する応答は生体の恒常性維持に必須である。酸素、紫外線、大気や食物中の化学物 質などが重要な環境由来ストレスとなっているが、これらのストレス因子の増加は生体内レドックスバランスの撹乱を招来し、多くの疾患の共 通基盤を形成している。超高齢化社会での健康長寿を実現するためには、生体の酸化ストレス応答機構全容の理解とその制御メカニズムの詳細 な解明が極めて重要である。本研究では、生体の酸化ストレス応答機構において中心的な役割を果たしているKEAP1-NRF2制御系の機能メカニズ ムの解明に挑むとともに、ストレス関連疾患の予防・治療に対する同制御系の貢献を明らかにする。特に、生体がKEAP1を利用して過剰な酸素によるストレスを感知するメカニズムとそのストレス感知が生体防御遺伝子群の発現の変化を惹起するメカニズムの解明に挑戦する。 当該年度は、KEAP1が酸化ストレスを感知する仕組みを解明することに成功し、その成果をCell Reports誌に報告した。酸化ストレスによって複数のシステイン残基の間でジスルフィド結合が形成されることによって酸化ストレスを感知し NRF2を活性化する。KEAP1は、仮に不具合が発生した場合においても酸化ストレスを感知して生体を守ることができる巧妙な仕組み(フェイルセーフ機構)を備えていることを明らかにした。この仕組みは、酸化ストレス感知に必要なシステイン残基の一部が親電子性ストレスなどによる修飾を受けてしまった場合でも、残ったシステイン残基の間でジスルフィド結合を形成することでNRF2活性化を引き起こすことを可能にする。そのため、システイン残基を1つずつ失わせる従来の解析方法では明らかにすることは難しく、複数のシステイン残基を同時に失わせる解析アプローチを採用することによって明らかにすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、遺伝子改変動物の作製、構造解析など順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1. KEAP1-NRF2系の動的な構造・機能連関の解明 X線構造解析およびクライオ電子顕微鏡法を用いた本複合体の構造解析を実施する。また、 動的構造変化を捉えるためのNMR構造解析を実施する。 2. NRF2活性に対する介入に基づく健康長寿戦略の確立と有効性検証 1)アルツハイマー病の予防・治療に対するKEAP1-NRF2制御系の貢献 アルツハイマー病モデルとして、アミロイド前駆体タンパク質(APP)/ Tau変異体トランスジェニック共発現モデルおよびAPP変異体ノックインマウスを用いて、これらのモデルマウスとNRF2欠失およびNRF2活性化( =KEAP1部分欠失)マウスとの重複変異マウスを作製し、それらのマウスにおけるアルツハイマー病態の増悪もしくは改善を調べる。 2)関節炎の予防・治療に対するKEAP1-NRF2制御系の貢献 関節炎モデルとしてSKGマウスを用いて、NRF2欠失およびKEAP1欠失(=NRF2活性化 )したマウスを作製し、SKG関節炎モデルマウスの病態を増悪及び改善を調べる。 3)2型糖尿病の予防・治療に対するKEAP1-NRF2制御系の貢献 2型糖尿病モデルとしてGK(Goto-Kakizaki)ラットを用いて、NRF2欠失およ びKEAP1部分欠失(=NRF2活性化)したGKラットを作製し、2型糖尿病病態に与える影響を調べる。 4)がん微小環境に対するKEAP1-NRF2制御系の貢献 各種KEAP1-NRF2遺伝子欠失マウスを利用し、発がん実験を行って、NRF2活性への介入によ るがん克服法の確立の可能性を探る。 5)宇宙環境「老化加速モデル」に対するKEAP1-NRF2制御系の貢献 JAXAとの共同研究で、宇宙環境で飼育したNRF2欠失マウスの各組織の遺伝子発現(RNA-seq)解析やメタボローム解析、エピゲノム解析を実施する。
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