研究実績の概要 |
1) アレルギー性結膜炎における痒みとPathogenic記憶Th2細胞の関与を明らかにする目的で、アレルギー性結膜炎モデルマウスとアレルギー性結膜炎患者の結膜の解析を行なった(Okano M., Immunity, 2022)。上皮から産生されたIL-33は結膜内のPathogenic記憶Th2細胞を刺激し、痒み誘導物質であるCGRPを産生させることで痒みを誘発することを明らかにした。またIL-33によりCGRP受容体を発現する感覚神経の伸長も認められた。マウスモデルにおいてIL-33またはCGRP欠損は痒みを低下させたことから、これらの分子が難治性の痒みの治療薬として応用される可能性が示唆された。 (2) 記憶Th2細胞の形成機構を明らかにする過程で、酸化ストレス除去機構の制御因子であるTxnipが重要な役割を担っていることを明らかにした(Kokubo K., PNAS, 2022)。本研究ではTxnipが酸化ストレスを除去することでアポトーシスを誘導し、記憶Th2細胞の形成を促進することがわかった。 (3) 病理組織標本にオスミウムコーティングすることで、走査電子顕微鏡による観察を可能とした(Wakai K., Sci Rep., 2022)。これによりマウス気管支組織の超微細構造形態を観察し、アレルギー性気道炎症反応におけるアンフィレグリンの病理学的作用を明らかにした。 (4) 舌下免疫療法の治療効果が高かった患者ではPathogenic 記憶Th2細胞の数が減少しており、これは舌下免疫療法によりPathogenic記憶Th2細胞が制御性T細胞に分化するためであることがわかった (Iinuma T, J Allergy Clin Immunol., 2022)。さらにTh2細胞の機能を抑制するマスキュリンの発現上昇が認められており、これが舌下免疫療法の有効性を確かめるバイオマーカーとなりうることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) これまで明らかにしてきたPathogenic記憶Th2細胞による好酸球性炎症誘導(Endo Y., Immunity, 2015)、並びに組織線維化誘導 (Morimoto Y., Immunity, 2018)に加え、本研究ではPathogenic記憶Th2細胞による痒みの誘発という新たな機能を同定することができた(Okano M., Immunity, 2022)。同等の知見がこれまでに報告されたことはなく、当初の計画にはない想定を超える進展であり、期待以上の研究成果であった。また酸化ストレス制御による記憶Th2細胞形成機構の解明は、TxnipによるPathogenic記憶Th2細胞を制御できる可能性を示唆しており、その学術的価値は高い(Kokubo K., PNAS, 2022)。 (2) 本研究により確立された新たな病理学的手法により、疾患に伴う細胞や間質の超微細構造変化を捉え、病的な組織の空間情報を理解することが可能となった(Wakai K., Sci Rep., 2022)。すなわち、通常の光学顕微鏡では観察することができない超微細な構造を走査電子顕微鏡により可視化することで、様々な疾患においてこれまで見過ごされてきた病的な構造変化を明らかにする可能性が考えられる。 (3) アレルギー性鼻炎の治療法の1つである舌下免疫療法は高い治療効果を持つが、その作用メカニズムは不明であった。本研究により、アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法において病原性記憶Th2細胞の機能的な変化が、その治療効果となることを明らかにした(Iinuma T, J Allergy Clin Immunol., 2022)。また舌下免疫療法によるマスキュリンの増加は、舌下免疫療法の有効性を示すマーカーとなりうることから、本研究成果の臨床的意義は高い。 以上、着実な研究進展が認められており、当初の計画以上の成果を得ている。
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