研究課題/領域番号 |
19H05651
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北川 大樹 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (80605725)
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研究分担者 |
知念 拓実 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (40775607)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞分裂 / 分裂期紡錘体 / 中心体 / 染色体分配 |
研究実績の概要 |
小頭症や高発癌性の遺伝性疾患である多彩異数性モザイク症候群の原因遺伝子Cep57とそのパラログCep57L1の機能解析から、細胞内における中心小体間結合の異常が、疾患患者に見られる染色体不安定性の原因であることを突き止めた(J Cell Biol 2021: 33492359)。通常は、S期中に複製された娘中心小体は母中心小体の近傍で結合状態にあり、分裂期終期に乖離することが知られている。Cep57・Cep57L1の発現を抑制した細胞では、形成途中の娘中心小体が母中心小体の側面から乖離し、それらの中心小体の側面から、中心小体が新たに再複製することを見出した。この結果は、これまで全く不明であった中心小体間結合の分子基盤の一旦を明らかにするものである。また、細胞周期間期における中心小体結合の維持が、再複製を抑制するのに極めて重要であることが初めて示された。実際に、Cep57・Cep57L1の発現を抑制した細胞では、過剰複製された中心小体が高頻度に染色体分配異常を引き起こすことを見出している。この研究成果は、中心小体複製の回数を制御する新たな機構を提示するばかりでなく、中心小体増幅を原因とする癌や遺伝子疾患の発症機構の解明につながることが期待される。 さらに、本研究では、中心小体のコピー数を制御するメカニズムを明らかにするために、中心小体が一細胞あたり数百程度増幅される多繊毛細胞を新しいモデル系として確立した。中心小体を複数同時に形成することが可能な未解明の構造体であるDeuterosomeに着目し、細胞内動態と形成過程の解析に取り組んでいる。既にDeuterosomeの主要な構成因子であるDeup1が特徴的な凝集活性を有することを見出しており、通常の中心小体複製のシステムと比較することで、両者の理解が飛躍的に進むと期待される (Biol Open 2021: 33658185)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで全く未知であった中心小体間結合の分子基盤に関しては、当グループが初めて突破口を見出し、先駆けて国際誌に発表することができた。中心小体間結合は、中心小体複製の制御機構と密接に関係しており、両システムを理解していくことが当該分野にとって今後重要であり、本研究はその方向性を提示したという意味で高い評価を得ている。また、多繊毛細胞というを新たなツールを確立することで、中心小体を過剰に複製する機構の解析が可能となり、独自性の高い研究の進展が期待される。以上のように、本研究では、想定を超える研究が展開されており、期待以上の成果が見込まれると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に含まれていた内容としては、中心小体複製の分子機構の解明や、理論的な観点を加えたモデル化を大幅に進展させることが出来た。また、細胞遺伝学的スクリーニングを利用した、多様ながん細胞における紡錘体形成マシナリーの同定に関しては、いくつかのスクリーニングは既に完了しており、同定された因子群の機能解析が現在進行中である。残りの研究期間で、新規因子群の紡錘体形成における作用機構や、抗がん剤開発において新しいターゲットになりうる因子の選定を進める予定である。化合物スクリーニングのアッセイ系の確立に関しても同時に進めることを予定している。
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