研究課題
ヒト細胞における分裂期紡錘体の多様な形成機構の解析を行った。これまでに、中心体を物理的に除去した細胞内において、通常時に中心体に局在する因子であるNuMAが異所的に高次構造体を形成し、二極化した紡錘体の形成を促進することを報告してきた。通常の中心体存在下の分裂期細胞においても、NuMAが効率的な紡錘体形成に関与する可能性を見出している。また、この際に重要なNuMAの構造的要素や特性に関しても解析を行った。これらの結果は、通常の紡錘体形成において、紡錘体極を構成する主要な構造体である中心体以外にも、紡錘体極形成を促進する未知の経路が存在していることを示唆している。さらに、中心体の中核構造である中心小体の細胞周期を通じた動態の解析を行った。前年度に、中心小体複製制御に重要な中心小体間結合の分子機構を明らかにし、それを国際雑誌(J Cell Biol 2021: 33492359)に報告した。本年度は、さらに細胞周期因子が中心小体結合を段階的に制御することで、他の細胞周期イベントと中心小体サイクルを同調させていることを明らかにした。このシステムが駆動することにより、染色体分配が適切に行われ、染色体安定性が保証されることが示唆されている。また、浮遊性細胞である血液がん細胞における分裂期紡錘体形成を、高解像度でイメージングする実験系の開発を行った。血液がん細胞は特徴的な紡錘体形状を示すことから、特異的な制御システムや動態を有することが推測される。染色体不安定性も高いことが報告されており、抗がん剤のターゲットとしても注目されている。一方、浮遊性であることから、固定した場所で継時的に全ての分裂期を観察する必要性があった。そこで、一細胞を複数トラッキングすることが可能なマイクロウェルを利用したシステムの構築を行い、分裂期を含む一細胞周期全てをイメージングすることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主眼である多様な分裂期紡錘体形成の理解に向けて、中心体と協調的に機能する新規の経路を見出すことができた。また、これを作用点とした抗がん剤の設計等も視野に入っている。さらに、中心小体サイクルに関しては、独自性の高い研究として展開をしており、国際的な波及効果も高いことが期待される。
分裂期紡錘体の形成において、中心体と協調的に機能するNuMA複合体の構成因子の同定と、それらのアッセンブリ機構に関して明らかにする。また、NuMA複合体が紡錘体の形成や物理的特性に与える影響について、各分裂期ステージごとに解析を行う。これらの解析を通じて、多様な分裂期紡錘体の形成機構の一旦を明らかにする。また、中心小体の複製機構に関しては、母-娘中心小体間の結合を担う分子実態を明らかにする。また、分裂期後期において、両者が解離する分子機構に関しても明らかにする。この研究対象に関しては、染色体安定性に影響を与える重要な現象であるにも関わらず、不明な点が多く、当グループが国際的に牽引している。よって、今後もこの研究をさらに加速させて進めていく予定である。さらに、複数種の血液がん細胞株において、マイクロウェルを用いて、分裂期紡錘体形成機構を一細胞レベルで解析する。血液がん細胞特有の分裂機構を明らかにすることで、その特異的な作用点の抽出を目指す。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 図書 (1件)
PLoS biology
巻: 20 ページ: 3001780
10.1371/journal.pbio.3001780
Frontiers in Cell and Developmental Biology
巻: 10 ページ: 861864
10.3389/fcell.2022.861864