研究課題/領域番号 |
19H05653
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩間 厚志 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70244126)
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研究分担者 |
山崎 聡 東京大学, 医科学研究所, 特任准教授 (50625580)
大島 基彦 東京大学, 医科学研究所, 助教 (70506287)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / エイジング / クロマチンアクセスビリティー |
研究実績の概要 |
若齢・加齢マウスの造血幹細胞のトランスクリプトーム、オープンクロマチン領域、ヒストン修飾、DNAメチル化プロファイルを取得した。ATAC-seqによるオープンクロマチン領域 (chromatin accessibility) 解析の結果、若齢・加齢マウスの比較においてchromatin accessibilityが異なるクロマチン領域 [Differentially accessible region (DAR)] は前駆細胞 (MPP1-4, GMP, MEP, CLP) よりも造血幹細胞 (HSC) において多く認められた。加齢造血幹細胞で有意に開くDARには、ATF、STAT、CNCファミリー転写因子の結合配列 (Atf2, c-Jun-CRE; STAT1/3/5; Nrf2, Bach1/2, NF-E2) が有意に同定された。これらの転写因子は、炎症やサイトカイン、酸化ストレスなどのストレスに反応性に活性化する転写因子群である。そこで、造血幹細胞を複数のサイトカインで刺激したところ、DARに一番近い遺伝子の遺伝子発現は基礎発現レベルが若齢と比べて加齢造血幹細胞で有意に高く、サイトカイン刺激後の発現も有意に高いレベルに達することが明らかとなった。これらのデータは、造血幹細胞にストレス暴露履歴がクロマチンに記憶されており、ストレス再チャレンジ時により強い反応が起こることを示しており、ストレス反応性の違いが加齢造血幹細胞の特性の一つであることが明らかとなった。このようなストレスの記憶がクロマチンに刻み込まれ、記憶として維持されているものと考えられる。今後は、どのようなストレスがエピジェネティック記憶として記憶されるのか明らかにしていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
若齢・加齢マウスの造血幹細胞のトランスクリプトーム、オープンクロマチン領域解析から、加齢造血幹細胞に特異的なchromatin accessibilityの変化を同定した。その解析から、造血幹細胞にストレス暴露履歴がクロマチンに記憶され、ストレス再チャレンジ時により強い反応が起こることを見出し、ストレス反応性の違いが加齢造血幹細胞の特性の一つであることを明らかとし、論文として発表した(Nat Commun 印刷中)。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 造血幹細胞の多様性を規定するクロマチン・エピゲノム特性のシングルセル解析:若齢・加齢造血幹細胞のシングルセルRNA-seqによって明らかになった加齢造血幹細胞の多様性の指標(Cluの発現とIFN応答性)をもとに、多様性を規定するクロマチン・エピゲノム特性を明らかにする。Clu-GFPマウスとIFN受容体ノックアウトマウスはすでに解析を始めており、多様性が生じる分子基盤を解明する。 (2) 造血幹細胞の機能低下に関わるクロマチン・エピゲノム特性の検証:1.に記載したClu発現造血幹細胞分画とIFN応答性(クラスター3)幹細胞は加齢造血幹細胞の機能低下の責任分画である可能性がある。これらの加齢造血幹細胞クラスターを制御する転写ネットワーク・エピゲノムの解析を進め、加齢造血幹細胞の機能低下に関わる分子基盤を明らかにする。 (3) 造血幹細胞の機能低下に関わるストレスシグナルの解明:2.で同定される造血幹細胞の機能低下に関わるクロマチン・エピゲノム特性が、どのようなストレスシグナルによって造血幹細胞に記憶されるのか、感染 (LPS, polyI:C)、炎症、高栄養などのストレスチャレンジ後のクロマチン・エピゲノム解析を行ない、造血幹細胞の機能低下に関わるストレスシグナルを明らかにする。
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