研究課題/領域番号 |
19H05659
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野田 昌晴 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任教授 (60172798)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 高血圧 / 血圧上昇因子 / 脳室周囲器官 / 交感神経制御中枢 |
研究実績の概要 |
I. レプチンによる血圧上昇機構の解析: 昨年度に作製した、LepR発現細胞が蛍光タンパク質tdTomatoで標識される遺伝子改変マウスの脳を観察し、LepR発現細胞が視床下部弓状核のほか正中視索前野や延髄孤束核などにも集中していることを確認した。 II. RAAS活性化による血圧上昇機構: 昨年度においてアンジオテンシンII(AngII)が脳弓下器官(SFO)および終板脈管器官(OVLT)に作用すると血圧上昇が起こることを明らかにしている。SFOおよびOVLTにおいて、AngII受容体であるAT1a陽性のニューロンの投射経路を調べた結果、共に血圧制御中枢と呼ばれる室傍核(PVN)に投射していることが確認された。 III. 血圧上昇を担う多様なシグナルを統合するメカニズム: これまでの研究成果から、Na+シグナルはOVLTからPVNに、AngIIシグナルはSFOおよびOVLTからPVNに運ばれていることを明らかにしている。現在、AngIIおよびNa+シグナルが、PVNにおいて同一の興奮性ニューロンに運ばれているのか、異なるニューロンに運ばれているのか解析している。 IV. 水分摂取の制御に関わる脳内機構: 血圧は体液Na+濃度によって大きな影響を受けることから、飲水による体液Na+濃度の恒常性制御は、血圧を制御するうえでも重要となる。本年度では、SFOに少なくとも2種類のコレシストキニン産生ニューロンが存在し、SFO内の水ニューロンの活動を飲水刺激により一時的に、あるいは体液Na+濃度の低下により持続的に、それぞれ抑制する働きをしていることを明らかにした(Matsuda et al., Nature Communications, 2020)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレスや肥満時に血中濃度が上昇する昇圧因子であるAngIIとレプチンが、脳内のどこで受容されているのか、また、そのシグナルがどこの神経核に運ばれているのかを明らかにした。また、2つのシグナルは相加的に血圧を上昇させることが判明したため、PVNでの2つのシグナルの情報処理機構の解明が楽しみになった。 体液Na+濃度上昇は血圧上昇を誘導する。体液中のNa+濃度に大きな影響を与える水分摂取の調節機構について、SFO内に2種類のCCKニューロンを同定し、GABAニューロンの活性化を通して、それぞれ異なる経路で短期的、あるいは長期的な水分摂取抑制に関与していることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
I. レプチンによる血圧上昇機構の解析: レプチンの血圧上昇作用をマウスを用いて調べる。正常マウスの脳室に一過性にレプチンを投与し血圧が上昇するかを調べる。また、レプチン濃度が上昇していると考えられる肥満マウスにおいて、レプチン受容体阻害剤の脳室投与で血圧が下降するかを調べる。また、正常マウスでレプチン投与により活性化する神経核をc-Fosの発現を指標に免疫組織染色で探索し、レプチンが作用する脳部位を特定する。 II. RAAS活性化による血圧上昇機構: これまでの研究成果から、SFOおよびOVLTからPVNにAng IIシグナルが連絡していることを明らかにした。次に、AT1a陽性細胞においてCreリコンビナーゼを発現しているマウス(AT1a-Creマウス)とウイルスベクターを用いて、SFOおよびOVLTのAT1a陽性ニューロン特異的に光活性化型チャネルロドプシンを発現させる。PVNにて青色光を照射することによって血圧上昇が生じるか検討する。これにより、SFOおよびOVLTのAT1a陽性ニューロンが直接的に血圧を制御しているのか判明する。 III. 血圧上昇を担う多様なシグナルを統合するメカニズム: 昨年度に引き続き、PVNにおいてAng IIとNa+シグナルがどのように統合されているのかin vivoイメージング法を用いて解析する。また、Ang IIとNa+シグナルの関係を調べるために、Ang IIとNaCl溶液を脳室内に単独あるは同時に投与して、血圧にどのような影響が現れるのか調べる。 IV. 水分摂取の制御に関わる脳内機構: 脱水時において、SFOにおける抑制性ニューロンを人為的に活性化すると、水分摂取は抑制されたが、それが完全に消失することはなかった。このことから、SFO以外の神経核においても水分摂取を抑制するメカニズムがあると考えられるため、今後の研究対象とする。
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