研究課題/領域番号 |
19H05662
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 研吾 東京大学, 情報基盤センター, 教授 (20376528)
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研究分担者 |
下川辺 隆史 東京大学, 情報基盤センター, 准教授 (40636049)
岩下 武史 北海道大学, 情報基盤センター, 教授 (30324685)
片桐 孝洋 名古屋大学, 情報基盤センター, 教授 (40345434)
松葉 浩也 東京大学, 情報基盤センター, 客員研究員 (30444095)
八代 尚 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主任研究員 (80451508)
荻田 武史 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (00339615)
長尾 大道 東京大学, 地震研究所, 准教授 (80435833)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | スーパーコンピューティング / 計算科学 / データ同化 / 機械学習 / 低精度・混合精度・変動精度演算 / ヘテロジニアスコンピューテイング |
研究実績の概要 |
2020年度は,前年度に引き続き(計算+データ+学習)融合を実現する革新的ソフトウェア基盤「h3-Open-BDEC」の各構成要素の基礎設計,プロトタイプ開発及び検証を実施し,本研究における(計算+データ+学習)融合のプラットフォームであり,2021年5月に運用を開始するWisteria/BDEC-01(東大情報基盤センター)の設計に反映させるとともに,ソフトウェア環境として整備した。「変動精度演算に基づく新計算原理」層では,低精度・混合精度演算に加えて,FP21,FP42等の変動精度演算の活用に向けた予備的検討を実施し,FP32,FP21では従来のFP64演算と比べて2倍以上の高速化が達成可能であることが確認された。「(計算+データ+学習)融合」層では,多重格子法,時空間並列化手法,4次元変分法データ同化手法,階層型データ駆動アプローチ(hDDA)の研究開発を実施した。「統合・通信・ユーティリティ」層については,研究計画調書で提案した「異機種混合コンテナ」に基づきh3-Open-SYS/WaitIOライブラリを開発,検証し,計算とデータ科学の融合を具体的にプログラムとして実現する見通しが得られた。多対多,多対1,シミュレーション+AI連携など,独創的なアイディアに基づく多機能カプラー(h3-Open-UTIL/MP)を提案,開発し,大気海洋シミュレーションによって検証し,(計算+データ+学習)融合実現のためのソフトウェア基盤の基幹部分が整備できた。「観測データ同化による長周期地震動リアルタイム予測」の検証をOakbridge-CXシステム上で実施し,計算科学の著名な国際会議であるSIAM CSE21で発表し,SIAM Newsに記事として取り上げられた。論文発表27件(査読付き:15,国際共著:3),学会発表30件(招待講演:7,国際学会:15)を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は,革新的ソフトウェア基盤「h3-Open-BDEC」の基礎設計,プロトタイプ開発・検証を継続して実施し,Wisteria/BDEC-01の設計へ反映し,高性能数値アルゴリズム,省電力手法,精度保証,自動チューニング,データ解析・データ同化手法,階層型データ駆動アプローチ,統合実行環境等の基礎的な研究開発を実施し,成果を国際会議等で発表した。「観測データ同化による長周期地震動リアルタイム予測」による検証も実施した。2021年5月に運用を開始する,Wisteria/BDEC-01での検証へ向けての準備は整っており,ほぼ所定の目標を達成した。開発ソフトウェアの公開も部分的に実施している。低精度・混合精度活用,高速アルゴリズムの研究開発の他,階層型データ駆動アプローチ(hDDA)については,非定常計算の時間ステップ数を削減するため,計算履歴からの推論に基づき,時間発展させた状態を予測する手法を開発し,その有効性を評価した。「エクサスケール時代のスパコンによる計算科学シミュレーションにおいて,従来手法と同等の正確さを保ち,総計算量・総消費電力量を10分の1以下に削減し,科学的発見を持続的に促進する」という当初の目標を達成する見通しがついた。Wisteria/BDEC-01,h3-Open-BDECによる(計算+データ+学習)融合の試みは,ハードウェア・ソフトウェア・アルゴリズム・アプリケーション一体となった取り組みとして,世界的にも注目されており,高性能計算コミュニティにおける世界的ニュース媒体であるHPCwireにも記事として取り上げられている。(計算+データ+学習)融合は欧米を始めとして世界中でその重要性が唱えられているが,統一的なソフトウェア基盤のアイディアはまだなく,h3-Open-BDECはその先駆的な存在である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は,これまで同様に基礎的な研究開発を継続して実施し,革新的ソフトウェア基盤「h3-Open-BDEC」の更なる高度化を実施する。また「h3-Open-BDEC」を2021年5月に運用を開始するWisteria/BDEC-01に展開し,ソフトウェアの検証,更なる改良を実施するとともに,ソフトウェアを公開し,国内各地のスーパーコンピュータシステムにデプロイすることによって,(計算+データ+学習)融合の推進を図る。本プロジェクト内では,①大気海洋連成シミュレーション,②観測データ同化による長周期地震動リアルタイム予測,③OpenFOAM等数値流体力学コード高度化,にターゲットを絞り,h3-Open-BDECを構成する各要素を連携させた(計算+データ+学習)融合による新しいアプリケーションを実現する。「変動精度演算に基づく新計算原理」層と「(計算+データ+学習)融合」層の密接な協力により,低精度,混合・変動精度演算に関する検討を実施し,様々な疎行列を係数行列とする問題に対して,所望の条件下で計算時間,消費エネルギを最小とする,最適演算精度を自動的に決定する自動チューニング機構の研究開発を実施する。更に「デジタルアニーラ」等を使用して,量子アニーリングをシミュレーションの高度化に取り入れる手法等,将来へ向けた検討にも着手する。スパコン利用者との共同研究,講習会,講義への導入等により利用の拡大を図る。国際会議等で積極的に成果を発表し,情報交換の結果をソフトウェアの更なる改良,高度化に反映させる。また,海外の協力機関(アメリカ,ドイツ,ノルウェー,台湾)とも緊密に協力し,情報交換,ソフトウェア普及に資する。また,オンラインもしくはハイブリッド形式で国際ワークショップを開催する予定である。
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