研究課題
4つの班が連携し、目的達成に向けた活動を開始した。陸域観測班は、東シベリア・カラマツ林用の海外寒冷地向けフラックス観測システムの国内試験を行った。新型コロナウイルスの蔓延により観測システムの輸送は実現していないものの、既存のシステムを活用して現地観測データを取得中である。また、過去約20年間に取得されたフラックス観測データ、衛星観測データ、モデル出力結果を収集してデータセットを構築した。東シベリアのカラマツ林観測サイトにおける正規化植生指数(NDVI)の長期変化傾向と生育期における気温と降水量の長期変化傾向との関わりを調べた結果、スパスカヤパッド(Spasskaya Pad)では生育期のNDVIが有意な増加傾向を示さず気温や降水量との相関が見いだせなかった一方、エルゲイ(Elgeeii)では生育期のNDVIが増加傾向を示し、気温と降水量の増加傾向と一致した。したがって、温暖化は北方林の生育にプラスに寄与するのみならず、降水量増加によってダメージを与えうることが示唆された。陸域モデル班は、融雪水・暖候期降水・地下氷融解水を成分分離し、北ユーラシアの河川流域におけるそれらの寄与率を定量評価可能なトレーサーモデルを開発した。東シベリアのスパスカヤパッド観測サイトにモデルを適用し、従来の観測データと比較・検証した結果、蒸発散量に対する暖候期降水の寄与が著しく大きいことを見出した。大気班は水蒸気トレーサーモデルの開発・改良に着手した。バレンツ海とカラ海における11月の海氷面積が小さいほど北極海起源の水蒸気の割合が増加し、シベリアで降水量が増加することを確認した。統括班は米国地球物理学連合(AGU)等の国際会議や国内学会での成果公表を開始した。東シベリアやモンゴルの共同研究者と協働し、2020年3月開催予定で国際シンポジウムを企画したが、新型コロナウイルスの蔓延により中止となった。
2: おおむね順調に進展している
採択決定後速やかにメールベースでの議論を開始し、2019年9月にキックオフ会議を開催した。陸域観測班は温室効果気体フラックス観測データベースの精査を行い、複数の衛星観測データを活用する解析体制を整えた。衛星観測データを用いて二酸化炭素フラックスの広域化を試み、北ユーラシアにおける2000年~2020年(過去約20年間)の光合成量と純生態系交換量のデータセットを構築した。また、衛星観測データを用いて東シベリアのカラマツ林(2ヶ所)における過去20年間の植生変化傾向を解析し、植生の長期的な変化は気温だけでなく降水量に大きく影響を受けることを明らかにした。陸域モデル班は北ユーラシアの4大河川(オビ・エニセイ・レナ・コリマ)流域における積雪面積、気温、降水量、陸水貯留量偏差、正規化植生指数(NDVI)を解析し、融雪時期の早期化がこれらの河川の年最大流出量のタイミングと植生活動に関わっていることを明らかにした。そして陸面過程モデルと水文モデルを結合した統合モデルに地下氷の融解過程を結合し、河川流出と蒸発散に対する融雪水・暖候期降水・地下氷融解水の成分分離とそれらの寄与率を定量的に評価できるように改良した。モデルの検証実験により有意義な結果が得られ、論文成果の公表に向けた準備を進めることができた。大気班も北極域に適用可能な水蒸気トレーサーモデルの開発・改良に着手し、境界条件や大気水収支の補正方法を検討した。統括班はキックオフ会議での意見交換に基づき多圏相互作用の統合化に向けた議論を進め、研究の方向性を共有した。その結果、共著論文の投稿・出版や書籍の出版などの成果が上がり、順調な滑り出しとなった。以上のように、各班および本研究課題の研究進捗状況は順調であり、新型コロナウイルスの蔓延の影響で実施困難となった現地観測と国際シンポジウム以外の研究計画は、概ね順調に進展している。
陸域観測班は、北モンゴル・カラマツ林用の海外寒冷地向けフラックス観測システムの発注と、完成品の国内試験を行う。また、過去20年間の衛星観測データを用いることで、気候変動(気温・水循環)が北ユーラシアの植生変動にどのような変化を与えてきたのかについて、多雨年や少雨年といった極端イベント年に着目した解析を行う。そして、統括班が創出する植生変化域時系列マップの基礎データとなる植生マップの構築に向け、準備を開始する。陸域モデル班は、本研究課題の主要対象領域である東シベリアのレナ川流域にトレーサーモデルを適用し、河川水に占める融雪水・暖候期降水・地下氷融解水の寄与を定量評価する。そして近年増加傾向にある河川流出量の成分分離を併せて行う。さらに、CMIP5やCMIP6のシナリオ実験結果を利用して、温暖化条件下での永久凍土の荒廃が陸域水循環(特に河川流出)に及ぼす影響を評価する研究を開始する。大気班は、北ユーラシアの河川流域を対象とした大気-陸域間の水循環経路の評価を可能にするため、流域ごとにタグを定義できるようにモデルの改良を行う。改良したトレーサーモデルを用いて、過去の異常気象事例や北極海氷縮小に対応した(北極海からの蒸発水起源の)水蒸気輸送の挙動(特に季節変化)を解析する。統括班は、植生変化域時系列マップと湛水域時系列マップの作成を進める。そして北ユーラシアにおける自然・人間環境変化に関する多圏相互作用の統合化に向けた議論や解析を進め、東シベリアやモンゴルの現地研究者との協働をさらに加速させる。研究分担者間の会合や現地研究者との会合については、新型コロナウイルスの蔓延状況を考慮しながら、オンライン会合を採用するなどして臨機応変に実施する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 14件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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