研究実績の概要 |
本研究課題は、知覚世界の安定化に寄与する空間情報の符号化方略について、心理物理学と脳機能計測法を組み合わせて明らかにしようとするものである。本年度は、心理物理学及び脳機能計測を用いて、知覚的安定化のメカニズムを検討した。 まず心理物理学的逆相関法という手法を用いて、現在注目している物体の知覚的テンプレートが、過去に観察した刺激に依存して変化することを心理物理学的逆相関法を用いて明らかにした(Murai & Whitney, 2021)。またこの系列依存性と呼ばれる現象が、各個人内で極めて一貫した特性を持つ個人差の大きい現象であり、かつ視野上の異なる場所で異なる効果量を示すことを示した(Kondo, Murai, & Whitney ,2022)。この研究は、個々の観察者において各視野位置に特有かつ安定した空間表現があり、それをもとにした知覚的安定化の方略が取られていることを明らかにした点で、本研究計画全体の目的に直結した研究であると言える。 脳機能計測を用いた研究としてはまず、脳波を用いて刺激呈示直前のアルファ~シータ帯域の振動位相が直後に呈示される刺激に対する系列依存性の効果量を予測することを明らかにしており、現在論文執筆中である(Murai, Manassi, Prinzmetal, Amano, & Whitney, in prep)。また視覚定位の脳内基盤を検討するため、MRI実験を行い、定位の個人差と脳内視野マップ(レチノトピー)の個人差を検討しており、取得したデータの解析を進めている。 派遣先において新型コロナウイルス感染症による対人実験の休止が長期化したため、中間評価のコメントをもとに研究目的・内容を精査・変更し、視覚的空間表現の心理学的・神経科学的メカニズムを解明するという研究目標に対して、上記のように着実な研究遂行を図った。
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