研究実績の概要 |
骨格筋は適度な運動によるタンパク質代謝により恒常性を維持している. そのため運動による負荷が過度に減少もしくは増加すると, 萎縮や肥大という適応を示す. また過度な負荷は筋損傷を惹起する. このような筋応答に対して温度変化が及ぼす影響はこれまで多く調べられてきたが, その基礎メカニズムに関する知見は乏しい. 本研究ではこの温度変化が運動に対する骨格筋の応答に及ぼす影響を細胞内カルシウムイオン動態に着目して明らかにすることを目的とする. 温度介入は臨床応用の視点からも安全性などの面で扱いやすく, かつ萎縮の予防, 肥大の促進や損傷後の治療など代謝に及ぼす大きな影響が期待される. 本年度は, 過度な運動による筋損傷に温度低下が及ぼす影響を調べた. 過度な運動, 特に伸張性収縮は骨格筋の細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させ, 筋線維の変性, 機能低下を招く. 急性の筋損傷後の治療としてアイシングが広く施行されている. しかし温度低下が筋損傷に及ぼす影響に関する基礎的な知見は十分に得られていない. そこで細胞内カルシウムイオン濃度動態をリアルタイムで観察した結果, 対照温度である30℃と比較して10℃時に濃度上昇部位の拡大が促進した. さらに筋力を指標とした損傷による機能低下はアイシングにより増悪した. この温度低下が招く筋損傷後の濃度上昇部位拡大には筋小胞体のカルシウムイオン放出によることが確認された. これらの知見は臨床におけるアイシング処置において, 筋温低下レベルを考慮する必要性を示唆するものである.
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