研究実績の概要 |
本研究の目的は結晶基底と Newton-Okounkov 凸体の関係を通して表現論の幾何学への応用を与えることである. 報告者は C 型の単純代数群に対して, 目標としていた Newton-Okounkov 凸体を組合せ論的モデルとするシューベルト・カルキュラスの理論を構築することに成功し, 次の結果を得た. Kiritchenko-Smirnov-Timorin は A 型の旗多様体のコホモロジー環と Gelfand-Tsetlin 多面体の polytope ring の間の同型を通して, A 型のシューベルト類を簡約な (双対) Kogan 面という Gelfand-Tsetlin 多面体の特別な面の和として記述した. 報告者はストリング多面体やその格子点を与える柏原結晶基底のストリング・パラメトリゼーションの理論を用いて, この結果を一般リー型の旗多様体まで拡張することに取り組んだ. 報告者はまず opposite Demazure 結晶のストリング・パラメトリゼーションを明示的に記述した. この記述に現れる面が簡約な双対 Kogan 面の自然な拡張を与えている. この結果は opposite シューベルト多様体の半トーリック退化を明示的に記述していると解釈することもでき, Kogan-Miller による簡約な双対 Kogan 面に付随する半トーリック退化の拡張を与えている. その後 pipe dream に対する mitosis 作用素の理論を応用して, 簡約な Kogan 面を A 型の Demazure 結晶と関連付けた. この関係は C 型の場合まで自然に拡張され, シンプレクティック Gelfand-Tsetlin 多面体上のシューベルト・カルキュラスの理論を誘導する. 詳しく述べると, 報告者はシンプレクティック Gelfand-Tsetlin 多面体に対する (双対) Kogan 面の概念を導入し, C 型のシューベルト類がこれらの面の和として記述できることを証明した. 2018年度に行った旗 Bott-Samelson 多様体に関する Eunjeong Lee 氏および Dong Youp Suh 氏との共同研究は Pacific Journal of Mathematics から出版された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標であったシンプレクティック Gelfand-Tsetlin 多面体を組合せ論的モデルとするシューベルト・カルキュラスの理論を構築することに成功した. また Demazure 結晶および opposite Demazure 結晶のストリング・パラメトリゼーションがそれぞれ Kogan 面および双対 Kogan 面の一般リー型への自然な拡張を与えていることを見出した. これらの拡張もシューベルト類と対応することが期待され, 本研究の一般リー型への拡張に向けて重要な指針を与えている. さらにこれらの拡張はある種のシューベルト多項式に対応すると考えられ, 新たなシューベルト多項式の発見や既存のシューベルト多項式の研究の進展に寄与すると期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
A 型の Kogan 面および双対 Kogan 面はシューベルト多項式に現れる単項式をパラメトライズしており, シューベルト多項式が持つ組合せ論的構造を深く反映している. そのため本研究で与えた他のリー型への拡張もある種のシューベルト多項式に対応すると考えられる.
次年度はまずシンプレクティック Gelfand-Tsetlin 多面体の場合に Kogan 面および双対 Kogan 面とシューベルト多項式の関係を考察し, その後一般リー型への拡張を模索する. 具体的にはこれらの面を Billey-Haimann および Fomin-Kirillov によって導入された C 型のシューベルト多項式と関連付けることから始める.
併せて正則半単純ヘッセンバーグ多様体の Gromov width の計算に取り組む. Choi-Hwang によって A 型のルート系に付随するトーリック多様体の Gromov width の公式が与えられているので, この公式と比較しながら一般の場合を考察する.
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