研究実績の概要 |
本研究の目的は, 何度も経験することで学習される行為系列に関する知識をスクリプトと呼ぶ。本研究では, 全員で挨拶をして食事をとるなど, 集団内で他者と一緒に学習される集団スクリプトの獲得が幼児の行動制御を促進するか検討することを目的としていた。 今年度は, すでに計画していた実験を日本だけでなくアメリカで実施するために, 共同研究者であるカリフォルニア大学デービス校のYuko Munakata教授のもとに短期間滞在し, 実験準備を進めた。そして, 帰国後日本で幼児80名を対象に実験を実施した。当初の計画通り, 食事場面における満足遅延課題とプレゼントをもらう場面における満足遅延課題を比較検討した。その際に, 自己制御に関わる質問紙, 食事習慣に関わる質問紙, 社会的慣習に関わる質問紙などを保護者にも回答してもらった。同計画をアメリカでも同時並行で実施し, 80名のデータ収集すでに終えている。本実験では, 日本の子どものみ食事場面の集団スクリプトを獲得していると想定されることから, 日本の食事場面における満足遅延課題で待ち時間が長いのではないかという予測をしている。日本の子どもを対象に実験室実験でマシュマロテストを実施したのは, 本研究が初めてだと思われるが, 予想以上に文化差が見られた。日本の子どもの場合, 標準の手続きではそもそも15分1人で部屋にいることが難しく, 保護者が部屋の前で必ず座っていることを確認してもらって初めて実験が成立した。 また, 本年度にはこれまでの研究をまとめた論文2編が採択された。そのうち一編は、国内の主要雑誌である「発達心理学研究」の特集号に掲載決定となった。この特集号は, 日本の研究者による最新の実行機能の発達に関する論考が集められており, 今後影響力を持つ可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は年度内に解析を終えて, その結果を報告する予定であったものの, 2カ国での実験の実施には当初の予定以上に時間がかかり, 年度を通して実験することとなってしまった。この経験は次回以降の国際共同研究にも十分活かすことができると考えられる。 ただし, 先の共同研究者のYuko Munakata教授と実施した研究がCollabra: Psychology誌に掲載された。この研究では, 日本の子どもを対象に, 幼児期の満足遅延課題の成績が集団規範により左右されることを明らかにし, 本プロジェクトを今後推進するうえで貴重な知見と言える。次に, 博士論文の根幹ともなるルーティンの獲得と実行機能の関係について論じたレビュー論文が「発達心理学研究」の特集号に掲載された。この特集号は, 日本の研究者による最新の実行機能の発達に関する論考が集められており, 今後影響力を持つ可能性が高い。最後に, Cognitive Science Societyが主催する学会のシンポジウム (主催者: Holger Schultheis, Richard Cooper) から招待を受け, 口頭発表を行ったことも特筆すべき成果である。 よって, 本年の研究進捗状況は,「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
取得済みのデータを解析し, 結果をまとめ, 来年度には国際誌に投稿し採択を目指す。 同時に, 新たな研究計画を実施することを予定している。ただし, COVID-19の影響で幼稚園や保育園での実験の実施が難しい可能性があり, 現在はオンライン実験や調査など新たな方法を模索している。
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