研究実績の概要 |
今年度は, 前年度途中であったデータ収集を完了させ, その解析及びデータに関する議論を共同研究者であるカリフォルニア大学デービス校のYuko Munakata教授とともに進めた。本研究では, 集団内で他者と一緒に学習される集団スクリプトの獲得が幼児の行動制御を促進するか検討した。 集団スクリプトとして, 日本の子どもは, 幼稚園や保育園の食事場面でも, 皆が集まってから手を合わせていただきますをしてご飯を食べるという経験を多くしているという点に着目した。これに伴い, 日本の子どもは自然と食事場面では待つ経験が多くなり, 行動制御が促進されると予想した。行動制御の指標として, すぐに小さな報酬をもらうのか, 待って大きな報酬をもらうのかという満足遅延課題を使用した。日本とアメリカの子どもを対象に, 満足遅延課題 (ターゲットの条件として食事場面, 統制条件としてプレゼント場面) を実施した。すると, 興味深いことに日本の子どもは食事場面における満足遅延課題での待ち時間が長く, 逆にアメリカの子どもではプレゼント場面における満足遅延課題での待ち時間が長いという全く逆のパターンが見られた。この考察として, アメリカでは, プレゼントを受け取る場面で他の人が開けるのを見てから自分のプレゼントを開けたりと, プレゼントを開けるのを待つ集団スクリプトがあることがわかった。直接的な関連を調べたわけではないものの, この集団スクリプトにより, アメリカの子どもは自然とプレゼント場面では待つ経験が多くなり, 行動制御が促進されたと考えられる。この結果より, 子どもがある文化内で身につけた集団スクリプトが我慢することを後押ししている可能性があることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度に得られた成果については, 2021年4月には国際学会で発表されることが決定しており, すでに国際誌に論文を投稿している。当該分野において十分なインパクトが見込まれる知見であり, 一流国際誌への採択が期待される。 さらに、今年度は他にも大きな進展が3つあった。まず, 本プロジェクトに密接に関連する2つの研究が国際誌に採択されたことである。1つは, 幼児を対象に行動制御の根幹となる課題目標を保持することに関連する認知・神経基盤を明らかにした研究がCognition誌に掲載された。また, 幼児を対象に行動制御がルーティンの獲得に及ぼす影響を明らかにした研究がChild Development誌に掲載された。どちらの研究も当該分野では非常に新しく, 学術的価値の高い知見を提供していることから, 国際的にも評価の高い学術誌に掲載されている。また, 博士論文の内容をもとにした, ルーティンの獲得と実行機能の相補的関係について論じた著書がナカニシヤ出版より刊行された。最後に, 新型コロナの影響により対面実験が困難を極める中, 打開策としてオンラインでの実験を模索し, 児童を対象にした研究にも着手した。幼児を対象とした研究の実施に向けてはまだ改善点は残されているものの, 現時点で児童を対象に実施した研究方法のノウハウに関して日本発達心理学会で口頭発表を行なった。本プロジェクトの3年目も対面実験の見通しが立ちにくいことから, 3年目につながる良い布石になったと考えている。 以上より, 本プロジェクトの2年目は, 本プロジェクトで掲げられていた多くの目標を達成する年度となった。最終年度では, 本プロジェクトの完成に向けてより一層研究活動に邁進したいと考えている。
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