研究課題/領域番号 |
19J00148
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
梅田 剛佑 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | パーキンサス属原虫 / Perkinsus olseni / Perkinsus marinus / トランスクリプトーム解析 / 生活環 / 遺伝子組換え |
研究実績の概要 |
本研究は、海産貝類に寄生する病原体であるパーキンサス属原虫のステージ転換に関わる遺伝子を比較トランスクリプトーム解析により網羅的に把握し、その知見に基づいてステージ転換の分子生物学的メカニズムの解明を目指すものである。ステージ間での比較トランスクリプトーム解析を行うには、まず再現性の高い条件で安定的にステージ転換を誘導する必要がある。そのため当該年度はまず、Perkinsus olseniとP. marinusを用いて最適な誘導方法の検討を行った。次に、検討した培養条件を用いて栄養体から前遊走子嚢を作出し、RNA-seqに供した。ステージ転換を制御する遺伝子は変態途中段階の方で発現していると予想し、前遊走子嚢誘導培地での栄養体の培養時間を0,1,6,24,96時間と段階的に設定し、各試料からスピンカラム法を用いてRNAを抽出した。得られたRNA-seqデータはP. olseniのゲノムデータと組み合わせ、解析パイプラインBRAKERを用いて新規ゲノムにおける遺伝子構造予測を行った。この遺伝子構造情報をリファレンスとしたトランスクリプトームアセンブリを行い、マッピングされたリード数から遺伝子発現量を求めた。また、遺伝子機能解析につながる予備実験として、米国ビゲロー海洋科学研究所のJose A. Fernandez Robledo上級研究員の協力の下、遺伝子改変原虫の作製条件の検討も行っている。その一環として、P. marinusの細胞表面に発現するMOEタンパク質とGFPの融合タンパク質を発現するプラスミドをP. olseniに導入し、PmMOE-GFPを異種発現する原虫の作出に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は主にパーキンサス属原虫のステージ転換誘導条件の検討および各ステージの原虫のトランスクリプトーム解析を実施した。ステージ転換に関しては、おおむね当初の予想通りの条件で安定して誘導することができており、栄養体と前遊走子嚢の2ステージについてはRNA-seqに供するのに十分な量・質のRNAを抽出することに成功している。トランスクリプトーム解析については、本属原虫を対象とした研究例が少なく、参考となるデータの入手もなかなか困難である。しかし、当該年度の本研究においては、他の研究者の協力を得ながら非モデル生物を対象とした解析パイプラインを活用し、得られたRNA-seqデータから遺伝子発現の定量化を実現した。また、本属原虫の遺伝子組換え技術の最適化についても、GFP発現P. olseniの作製に成功するなど、次年度以降の研究に向けてある程度の準備が進んでいる。加えて、本属原虫のステージ転換条件に関しては国際誌に論文が受理されるという成果もあった。以上の理由により、当該年度の研究はおおむね順調に進展したものと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
P. olseniのゲノムについては公共データベースにアノテーション情報がないため、P. marinusおよびその他の生物に関する公開データを利用し、BlastXあるいはDiamondを用いた各遺伝子の相同性比較および機能予測を現在進めている。これにより予測された各遺伝子の機能情報と、各トランスクリプトームデータにおける各遺伝子の発現量の情報を組み合わせることで、ステージ間および種間で遺伝子発現を比較する。大まかな時系列データが利用可能であることを活用し、ステージ転換に関わると考えられる特徴的な発現パターンの遺伝子を同定する予定である。候補となる遺伝子が得られた後は、Gene Ontology解析による発現変動遺伝子群の機能推定を行うとともに、RT-qPCRを用いてさらに詳細な発現パターンの解析と確認を実施する。さらに、候補遺伝子の機能推定のため、遺伝子組換え原虫の作製を進める予定である。プラスミドを用いた遺伝子導入に加えて、P. marinusにおいて一定の成果が得られているCRISPR/Cas9法を用いた遺伝子編集をこれまで得られたゲノムデータを活用してP. olseniにも適用を試みる予定である。また、当該年度に作出したPmMOE-GFPを異種発現するP. olseniを利用し、タイムラプス撮影を活用したライブイメージングを実施する予定である。これにより、ステージ転換時における細胞分裂・細胞壁形成過程に関する知見を得たいと考えている。
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