本研究では、海産貝類に寄生するパーキンサス属原虫のステージ転換を制御する分子生物学的メカニズムの解明を目指している。前年度はステージ転換を誘導する培養条件を検討し、誘導培地中で培養したPerkinsus olseni栄養体(ATCC# PRA-181)を試料としてRNA-seqを実施した。 本年度はこのRNA-seqデータ(ステージ転換誘導開始0,1,6,24,96時間後)から遺伝子発現を定量し、各遺伝子の発現変動について時系列解析を行った。その結果、発現変動遺伝子は変動パターンに基づいて大きく9つのクラスターに分類された。この中には元は低めの発現であったがステージ転換誘導開始後に発現が急上昇し、終了後(96時間後)には発現が戻っていた遺伝子群、またもともと高めの発現であったが培養期間の早いタイミングで大きく発現が低下した遺伝子群など、ステージ転換の制御への関与が推測されるクラスターが検出された。また、当初は1反復のみのデータを解析していたが、今年度はさらに3反復のサンプルに対してRNA-seqを実施し、結果の再現性を確認した。 さらに、遺伝子機能推定のための技術開発として、遺伝子改変原虫の作製条件の検討を実施した。前年度はエレクトロポレーション法を用いたプラスミド導入によるGFP発現原虫の作製に成功していたが、導入・発現効率が低く、組換え原虫の選択の効率化が課題の一つであった。そこで本年度は、ピューロマイシン耐性遺伝子を利用した薬剤選択ベクターの提供を受け、P. olseniへの導入条件を検討した。ベクターを導入した原虫では薬剤存在下でもマーカーとなるGFPの発現が確認され、さらに栄養体の増殖も確認された。しかし、生残した栄養体の安定した増殖には数か月の時間を要したことから、薬剤耐性遺伝子の発現効率は高くないと推定され、発現プロモーターの変更など技術改良の必要性も示された。
|