研究実績の概要 |
スペクトル掛け算作用素とは, 自己共役作用素のスペクトル分解によって定義される作用素の関数のことである. この作用素はフーリエ掛け算作用素の一般化になっており, 様々な設定で偏微分方程式や関数空間を扱うことを可能にする. 本研究は, この作用素を用いて抽象的な枠組みで関数空間を定義し, 非線形偏微分方程式の理論に応用することを目指している. 今年度は, 一般領域上における半線形熱方程式の初期値境界値問題やポテンシャル項をもつ半線形熱方程式を統一的に扱うために, スペクトル掛け算作用素によって定義された関数空間を用いて半線形熱方程式を研究した. 特に, 方程式の線形部分に由来する拡散性と非線形項からくる非線形性とが釣り合うエネルギー臨界状況において, 適切性および解の時間大域的挙動を考察した. より正確には, 基底状態より小さいエネルギーをもつ初期値に対して, 解の挙動を決定づける初期値の必要十分条件を与えた. この結果は査読付き雑誌に投稿中である. また, Hardy-H\'enon型の冪乗型非線形項をもつ熱方程式に対しても類似の結果を示した. さらに, シュレディンガー方程式の外部問題を考察した. 特に, 空間3次元以上での外部領域においてStrichartz型時空評価式と呼ばれる平滑化評価式を証明した. 障害物は境界が滑らかで非補足的な集合とし, 境界条件としてDirichlet境界条件あるいはNeumann境界条件を扱っている. この結果は査読付き雑誌に投稿中である.
|
今後の研究の推進方策 |
測度距離空間上における自己共役作用素によるベゾフ空間に関する研究を推進していく. さらに, 非線形問題に応用するための重要な道具の一つとして知られている, 分数階ライプニッツ則に相当する不等式を平方場作用素の観点から研究していく. また, 自己共役作用素によるベゾフ空間上での放物型方程式や分散型方程式の線形評価式に関する研究を推進していく. 非線形問題については, 基底状態のエネルギーより大きい初期値に対する解の分類に関する研究を行う.
|