ウイルスの感染はミトコンドリアの損傷を引き起こすとともにミトコンドリアを介した抗ウイルス応答や炎症応答を惹起することが知られているが、その詳細なメカニズムには未だ不明な点が多い。本研究ではインフルエンザウイルス感染後の炎症応答におけるミトコンドリアDNAの役割を検討した。まずインフルエンザウイルス感染マクロファージにおけるミトコンドリアDNAの局在変化を観察したところ、細胞質中やマクロファージ細胞外トラップと呼ばれるネット状の構造物中にミトコンドリアDNAが検出され、この中には酸化DNAや核DNAが含まれていた。次にインフルエンザウイルスが酸化DNAの産生を誘導するメカニズムを解析したところ、インフルエンザウイルスのPB1-F2タンパク質は二本鎖RNA存在下で、M2タンパク質はそれ単独で、細胞質中にmtDNAや酸化DNAを放出させることが明らかになった。また、インフルエンザウイルスを感染させたマクロファージに酸化DNAを加えると炎症性サイトカインであるIL-1βの産生が増加し、細胞内DNA受容体であるAIM2を欠損したマクロファージでは、野生型のマクロファージと比較してインフルエンザウイルス感染後のIL-1βの産生が有意に低下したことから、インフルエンザウイルスが誘導する細胞質中の核またはミトコンドリア由来DNAは、AIM2依存的にIL-1βの分泌を促進させていることが示唆された。以上の成果はインフルエンザウイルス感染によるミトコンドリア損傷や酸化ストレスが感染後の炎症応答を引き起こすメカニズムを明らかにするとともに、インフルエンザウイルス認識機構における細胞質中DNA受容体の役割を明らかにしたものであり、これらの成果をまとめた論文は申請者が筆頭著者としてiScience誌に報告した。
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