申請者は初年度までに、加齢個体卵由来胎盤では若齢卵由来と比較して胎盤重量が増加することを見出した。そこで本年度では胎盤重量が増加した要因を調べるため、E19.5の若齢・加齢卵由来胎盤5個ずつを用いてRNA-seqを行った。差次的発現遺伝子解析を行ったところ、加齢卵由来胎盤で260の遺伝子発現が低下しており、272の遺伝子発現が増加していた。胎盤形成に深く関与するとされる胎盤特異的インプリント遺伝子の発現は加齢-若齢間で差は見られなかったが、canonicalなインプリント遺伝子であるSlc22a18とGNASにおいて、加齢卵由来胎盤で発現が上昇していた。特にGNASは、解析に用いた個々の胎盤重量と遺伝子発現の間に高い相関関係が見られたことから、加齢卵由来胎盤の過形成に影響を及ぼしている可能性が考えられた。また、マウス胎盤形成に関連する遺伝子の中から、Rspo3、Synb、Hes1の発現が加齢胎盤で上昇していることがわかった。これらはいずれも胎盤迷路部の血管形成や分岐に関わっており、加齢卵由来胎盤で見られたスポンジオトロホブラストの増大と直接関連は無いと考えられるものの、興味深い発見である。また、加齢卵由来胎盤ではDNAのde novoなメチル化酵素であるDnmt3bの発現が低く、発現量と胎盤重量の間に有意な負の相関があることが観察された。これらのことから、加齢卵由来胎盤ではDnmt3bの発現低下に端を発したDNAメチル化レベルの低下により遺伝子発現が変動し、これが胎盤形成異常の原因になっていることが推測された。今後は胎盤で遺伝子発現が変動した領域のDNAメチル化レベルや、卵の遺伝子発現変動について解析する予定である。
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