本年度は、実施項目として、1)異方性のある拡散場の電気トモグラフィ計測実験、2) 画像再構成法における高時空間分解能な前処理法の検討、3)異方的な拡散場での輸送係数評価について検討した。以下に、各実施項目について詳説する。
1) 前年度作成したPCB基盤型トモグラフィックセンサを利用したイオン輸送の異方性計測実験を実施した。異方的な拡散場を形成するために、センサ上に流路を設け、異なる浸透圧濃度の培地を細胞の両側から送達できるシステムを構成し、細胞外液の浸透圧濃度による細胞内との浸透圧差を利用した細胞スフェロイドから生じるイオン輸送を空間的に変化させることを可能とした。浸透圧濃度は、等張状態、低張状態、高張状態の3種類の組み合わせで行い、各条件における細胞膜上のチャネルタンパク質を介したイオン濃度輸送を計測した。 2) イオン拡散と比較して、1枚の画像再構成に必要な計測データ取得時間が長くなるためデータ前処理として、イオンの拡散方程式を利用したフィルタリング方法を開発した。拡散方程式と実験条件に合わせた境界条件のもと、上記で求めた外液抵抗のデータ補間を行い、擬似的に時間分解能(約0.1sの分解能)を向上させた。この補間した外液抵抗データをもとに画像再構成を行い、異方的なイオン拡散による異方的なイオン濃度分布が可視化された。 3) 2)で可視化されたイオン濃度分布をもとに異方的な拡散場における輸送係数評価を行った。輸送係数評価には、2)と同様にイオンの拡散方程式を考慮し、細胞内から外液へのイオン浸透係数を輸送係数として仮定し、境界条件として設定した。このイオン浸透係数をパラメータとして拡散方程式を解き、可視化されたイオン濃度分布に最も一致するイオン浸透係数を求めた。実験の結果から、等張状態におけるイオン浸透係数が、低張状態、高張状態に比べて低く、有意差が認められた。
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