研究実績の概要 |
本研究では,菌類-ウイルス相互作用のモデル糸状菌であるクリ胴枯病菌を用いて,抗ウイルスRNA干渉 (RNAi) 機構におけるArgonauteタンパク質の役割分担や必要性がウイルスに応じて異なる可能性を検討している.先行研究において,クリ胴枯病菌が持つ2つのDicer様タンパク質遺伝子 (dcl1, dcl2) と4つのArgonaute様タンパク質遺伝子 (agl1, agl2, agl3, agl4) のうち,Cryphonectria hypovirus 1 (CHV1, ハイポウイルス科) に対する抵抗性には,dcl2とagl2が必要であることがわかっていた.一方で,Rosellinia necatrix victorivirus 1 (RnVV1, トティウイルス科) に対する抵抗性には,dcl2は必要とされるが, agl2は寄与しない可能性が示されていた.そこで本研究において,RnVV1に対する抵抗性にagl2以外のagl遺伝子が寄与するか検討するため,本菌の相同組換え用系統であるDK80系統を遺伝的背景として,4つのagl遺伝子の単独ならびに多重破壊株を作製した.これらagl遺伝子の各単独破壊株や多重破壊株は,培地上でDK80系統と同等の栄養生長を示した.各系統にRnVV1を接種し,ノーザンハイブリダイゼーションによりウイルスRNA蓄積量を解析した.すると,dcl2遺伝子破壊株 (Δdcl2) では明らかなRnVV1由来RNA蓄積が認められた一方で,agl遺伝子単独・多重破壊株ではDK80系統と同様にRnVV1由来RNAが検出されなかった.よって本菌からのRNAiによるRnVV1排除は,Argonaute非依存的機構によることが示唆された. また,本研究への供試材料とすることを想定して,新規ウイルスの同定・特徴づけを行うとともに,これらウイルスをクリ胴枯病菌に接種することを試みた.これらの成果を原著論文および学会で発表した (業績一覧).特筆すべき結果として,フザリウム萎凋病菌から,分子実体がユニークである新規ウイルス(タンパク質外殻を持たない可能性が高いが,11本もの分節ゲノムRNAを持つ)を見出した(論文投稿中).
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