研究課題/領域番号 |
19J00324
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鄭 昇明 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 初期宇宙 / ブラックホール / 銀河形成 / 宇宙論 |
研究実績の概要 |
本年度は宇宙初期における大質量ブラックホール形成とその質量成長の過程の理解を深めるためにさまざまな大規模数値シミュレーションをおこなった。まずこれまで初期宇宙における超大質量ブラックホール(SMBH)を説明する有力なモデルの一つである、直接崩壊モデル(Direct Collapseモデル、DCモデル)の検証をおこなった。これまではDCモデルによって10万太陽質量のBHが赤方偏移10を超える初期宇宙で形成されることはさまざまな研究によって明らかになってきた。しかしながら形成したBHが質量成長して観測された質量を持つSMBHに成長するか否かは、まだ明らかにはなっていなかった。そこで我々はDCモデルで形成したBHの質量成長の過程を宇宙論的な3次元流体シミュレーションを用いて検証した。特に我々はBH成長の初期条件として、Chon et al. 2016と2018で実際にBHが形成することが示されているサンプルに着目した。このようにDCモデルが要請する条件を満たして形成するBHの質量成長を実際に追った研究は今回が初めてである。 計算の結果DCモデルで形成したBHはほとんど質量成長することがないことがわかった。形成後の成長率は非常に低く、従来仮定されてきたEddington成長率を3-5桁下回った。これはBHが形成する環境に原因がある。すなわち、DCモデルではBHは重元素を全く含まないガス雲で形成することが要求される。しかしながらこのような環境は、銀河中心から離れた密度の低い銀河外縁部でしか実現し得ない。事実、BHは銀河中心から1 kpc離れた箇所で形成され、低密度空間を漂い続け成長に乏しいことがわかった。このため初期宇宙で観測されているSMBHの起源を説明するのは困難であると考えられる。我々はこれとは独立に重元素の存在下でも重たいBHを形成可能なモデルを提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は宇宙におけるブラックホール形成と進化についての研究を中心に行なった。ブラックホールの成長に関する計算は一通り完了したため、研究は概ね順調に進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は宇宙初期におけるブラックホール形成と進化に主に焦点を当てて研究を行ってきた。特に重たい種ブラックホールの形成に着目し、直接崩壊モデルで形成するブラックホールの質量進化の過程を詳細に調べた。次年度は重たい種ブラックホールのみならずより一般のブラックホール形成過程を調べるべく、宇宙初期の星形成活動に着目する。宇宙初期のガス雲は酸素や炭素といったいわゆる重元素を全く含まない。このような環境下では、近傍の宇宙に比べて非常に大きな質量を持つ星が形成すると考えられている。太陽の100倍を超える質量を持つ星も多数形成することが予想されており、これらの星はブラックホールに直接崩壊すると考えられている。このようなブラックホールも超大質量ブラックホールの起源の一つとして現在でも盛んに研究が行われている。 次年度は星形成ガス雲の重元素量の違いに着目して、形成される星質量分布の宇宙論的なタイムスケールでの変遷を理解することを目指す。また、宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background、CMB)による加熱の影響がある。このCMB輻射の温度は初期宇宙に行けばいくほど大きくなり、より加熱に寄与するようになる。このような加熱はガス雲の分裂を抑制することで低質量星の数を減少させ、重たい星の数をより増大させると考えられる。このようなCMB輻射の影響を考慮しつつ、実現する星質量分布を理解する必要がある。そこで次年度はガス雲の持つ重元素量とCMBの影響を考慮した上でガス雲の熱進化を詳細に計算しつつ、初期宇宙で実現する星の質量分布を調べる予定である。
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