研究課題/領域番号 |
19J00334
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤原 和将 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 分数階の微分作用素 / ライプニッツ則 / 初期値問題 / 可解性 |
研究実績の概要 |
平成31年度の研究目標は、分数階の微分作用素(ラプラシアン)を消散項(主要部)に有する構造消散型波動方程式の弱解が存在する為の条件を明らかにする事であった。特に、これまで正値解に対してのみ議論されていた弱解の存在・非存在の議論を、一般の弱解に対して行う事を目指した。 本研究では、分数階の微分作用素に対する各点評価を導入し、古典的な微分作用素に対する議論と同様の手法で、弱解が存在しない為の条件を求めた。特に、構造消散型波動方程式が放物型と見做せる場合に、本研究で得られた条件は精密なものである。 本研究で求めた各点評価は古典的な微分法則に対する積の微分法則(ライプニッツ則)に対応する評価である。分数階の微分作用素は非局所である為、任意の滑らかな関数に対して、古典的な微分作用素に対応する微分法則は成立しない。然し本研究では、多項式程度の減衰する滑らかな関数に限定して、分数階微分作用素に対する積の微分法則に対応する各点評価を導入した。更に本研究では、原点が分数階導関数の零点となる試験関数を構成した。分数階導関数の原点での値を制御する為には、試験関数のフーリエ変換の重み付き積分か、試験関数の差分に対する重み付き積分を正確に計算する必要がある。一方で、これら積分を正確に計算でき、分数階微分作用素に対する各点評価を満足する試験関数は知られていなかった。本研究では、試験関数の差分の評価に着目し、原点での分数階導関数の値が正になる試験関数と負になる試験関数を見つけた。そして、二つの関数を補間する事で原点が零点となる様な、試験関数を構成した。 本研究により、分数階の微分作用素を古典的な微分作用と同様に扱うことが出来た。そして、方程式の伸縮構造の観点から自然な条件の下で、弱解が存在しない事が明らかになった。本研究で得られた手法は、一般に分数階の微分作用素を伴う方程式に適用されるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成31年度の研究は、比較的に計画通りに遂行する事が出来た。研究訪問に就いても企画していた期間の倍以上の期間をかけ、充分に行う事が出来た。結果として、計画していた消散型波動方程式の研究に留まらず、より一般的な分数階の微分作用素を有する方程式の弱解が非存在しない条件を検討する事が出来た。そして、上記の弱解の非存在の議論は、方程式が放物型と見做せられる場合に、分数階熱方程式や構造消散型波動方程式の既存の研究を補完する精密なものである事が分かった。更に、今回得られた分数階導関数の各点での制御を応用する事で、ソボレフ空間に対する補間不等式(ガリアルド・ニレンベルグの不等式)が成立しない指数の組に対する、反例を挙げる事が出来た。一方で、方程式が概ね双曲型である場合、本研究で扱った様な伸縮構造のみに着目した弱解の非存在の議論は不充分である事が分かった。平成31年度の研究では、方程式が概ね双曲型の場合に就いては充分な考察が出来なかったので、来年度の研究内容の一つとして扱いたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度の研究では、分数階の微分作用素を伴う方程式が概ね放物型と見做せる場合に於いて、弱解が存在する為の必要充分条件を求めた。この弱解が存在する為の条件は、方程式の伸縮構造から説明される。一方で、構造消散型波動方程式が双曲型と見做せる場合には、弱解が存在すると判明している条件と、平成31年度の研究で判明した弱解が存在しない為の条件の間には未だ溝がある。古典的な双曲型方程式(半線型波動方程式)の観点から見ると、弱解が存在する為の条件は方程式の伸縮構造からは説明しきれない。同様に、平成31年度の研究で得られた弱解が存在しない為の条件は不十分である。従って令和2年度の研究では、構造消散型波動方程式が双曲型と見做される場合に於ける弱解が存在する為の条件を精密化する研究を行う。 又、藤田臨界冪の絶対値冪乗型非線型項を伴うシュレディンガー方程式に就いて新たに研究する。この研究の目標は、臨界尺度に於ける解の爆発現象を、爆発解の先験的評価によって理解する事である。藤田臨界冪は、冪乗型の非線型項を有するシュレディンガー方程式に対して、可積分空間に於ける臨界尺度である。このシュレディンガー方程式の解が爆発する事は、池田 - 小川 による試験関数法の修正によって証明される。特に、臨界尺度に於ける爆発解の爆発時刻は、劣臨界尺度の場合と大きく異なる。一方、爆発解の概形は未解明であり、方程式の主要部と自己相互作用の釣り合いが与える、解の爆発現象への影響は不明な所が多い。本研究では、爆発解の先験的評価を記述する事により、臨界尺度に於ける爆発解の概形の解明を目指す。
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