研究実施計画の通り反強磁性体CeCoSiの核磁気共鳴測定を行った.本物質では反強磁性転移よりも高温側に別の秩序相が存在することが指摘されているが,その秩序変数は不明であった.そこで本研究ではこの相の起源を明らかにすることを目的とした.本測定の結果,この相は格子変形を伴わない電気四極子相である可能性が高いことが分かった.正方晶のCe系化合物でこの秩序を示す例はまれであり,その発現には局所的に反転対称性がない特殊な結晶構造が関係している可能性がある.結晶構造と多極子相の関連を解明するうえで本研究の成果は意義深い.また,この相は,URu2Si2で見られる隠れた秩序相と類似しており,その起源の解明という点からも,CeCoSiでの発見は意義がある. 一方,磁場角度を制御して測定されたCeCoSiのスペクトルは,この相では異常なスペクトルの分裂を示すことが明らかとなった.これは磁場中では上記の電気四極子相が異なる状態にあることを示唆する.この効果もCeCoSiの特殊な結晶構造に起因する現象である可能性があり, 上記の測定に加え,研究目的に関連して反強磁性量子臨界候補物質の探索も行った.鉄系の反強磁性体Zr4Fe4Si7及び関連物質であるNb4Fe4Si7の単結晶試料の作製に成功し,約4 GPaまでの高圧下の電気抵抗測定を行った.その結果,Zr4Fe4Si7の反強磁性相は加圧につれて抑制されるものの,量子臨界点は4 GPaを超えることが明らかとなった.また,Nb4Fe4Si7について本研究で初めて低温の物性測定ならびに核磁気共鳴測定を行った結果,この物質がより磁気的な量子臨界点に近い可能性があることが分かった.ただし磁気秩序の詳細は未解明であり,試料の質の改善が課題である. ウラン系の強磁性臨界候補物質の合成については,出張が困難な社会情勢であったため,本年度は実施しなかった.
|