研究課題/領域番号 |
19J00392
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
齊藤 匠 東邦大学, 理学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ヒラマキミズマイマイ / ヒラマキガイ科 / 水棲上目 / カドヒラマキガイ |
研究実績の概要 |
本年度は、水棲上目の形態進化パターン解明のための追加サンプルの収集を行った。バングラディシュなど海外へのサンプリング、及び共同研究者の協力によりユーラシア大陸東部から南部、ニュージーランド、北米域のサンプルを入手することができた。さらに水棲上目の形態進化パターンについては関連する先行研究が公表されたため、これらの情報と合わせてある程度高い網羅率で全体の系統仮説を構築できると考えられる。 一方、形態多様化の遺伝的背景を探るための飼育・交配実験についてはカドヒラマキの安定的な飼育が非常に難しいことが判明した。これは、琵琶湖固有種であるカドヒラマキが水環境の変化に極めて脆弱で、換水時に若齢の個体の大半が死亡してしまうためであると考えられた。そこで、容器サイズを大型化し、換水をごく少量ずつにすることによってある程度この問題は回避される可能性が高いことを見出したが、本格的な交配実験については次年度以降の課題となった。 さらに、上記の理由により交配実験が完遂できない可能性を考慮し、カドヒラマキの形態変化のメカニズムを野外集団からも探ることを試みた。琵琶湖での調査と野外集団のゲノムワイドな遺伝解析からカドヒラマキの形態変化は、周辺に生息する近縁種のヒラマキミズマイマイから極めて速やか(約十万年以内)に琵琶湖で生じたことが示唆された。加えて、湖内のカドヒラマキと湖外のヒラマキミズマイマイの間には依然として遺伝子流動があることも示唆された。加えて、これらの琵琶湖でのカドヒラマキの調査の過程で、本種及び関連した種であるヒロクチヒラマキの分類学的位置について分類学的変更の必要性があることが判明したため、論文としてまとめ、受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、水棲上目の系統関係の把握は順調に行われている。また比較対象となる多様な淡水産貝類の系統、進化史についても共同研究者らとの協力により複数の論文として公表する事ができた。以上より、系統関係の把握の面では想定以上の進展があったと考えられる。 一方、飼育実験については交配実験の片親であるカドヒラマキの安定的な飼育が思いの外難しい事が判明し、本年は交配実験自体を開始する事はできなかった。そのため、飼育方法の開発に専念し、交配実験そのものについては来年度以降の課題とすることとなった。 上記の、飼育困難な状況を鑑み、次年度も交配実験がうまくいかないことを視野に入れ、カドヒラマキの野外個体群の進化的背景を明らかにするための集団遺伝学的解析を追加で行った。こちらは順調にデータを得ることができ、解析の結果から急速な形態の変化が示唆されるなど興味深い知見が得られた。また、上記研究の過程で、従来カドヒラマキと近縁と考えられてきたヒロクチヒラマキの分類学的位置について再検討を行った。タイプシリーズの標本の検討から、カドヒラマキとは系統を異にする種である可能性が高いと示唆された。上記の結果は論文として公表された。 全体として、計画ごとに進展の具合は様々であったが、総合的には順調に進展したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は飼育・交配実験によるカドヒラマキとヒラマキミズマイマイのF1/F2世代の作出と、それを用いたQTL解析を行うことを第一の目標とする。万が一交配実験がうまくいかなかった際にはゲノムワイドなデータからカドヒラマキとヒラマキミズマイマイのゲノム関連解析をすることも視野に入れる。またすでに得られているカドヒラマキの集団遺伝学的データも論文として公表することを目指す。 次に、現在までに得られた水棲上目の系統関係を用いて、形態進化の祖先形質復元を行い、傘型種が祖先的で、多様な巻き型が傘型種の後に派生したという進化パターンを持つかどうかを明らかにする。形態の測定は可能であればCTデータから成長管モデルやラウプモデルを用いて貝殻の構成パラメータを単純化し祖先形質復元することを想定している。さらに腹足類全体でもすでに公表済みの系統データと図鑑などから得られる巻き型のカテゴリカルな情報を用いて同様の解析を行うことを予定している。 また傘型種の野外での左右両巻型の比率の検証もカワコザラなどの日本産種を用いて行う予定である。
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