研究課題/領域番号 |
19J00392
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
齊藤 匠 東邦大学, 理学部生物学科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ヒラマキミズマイマイ / ヒラマキガイ科 / 水棲上目 / カドヒラマキガイ / 琵琶湖 |
研究実績の概要 |
本年度はcovid-19の感染拡大抑止策のため、海外調査・国内調査・共同研究先への出張・研究設備の利用などが制限される状況が続いた。そのため、当初の研究計画を大幅に変更し、現在までに取得しているデータの論文化・公表を進めるとともに、文献やデータベースから得られるデータの取得・整理、すでに昨年度までに得ていた遺伝子データの解析を中心に進めた。 具体的には、昨年度までの海外調査によって発見された貝類の遺伝子解析や、博物館標本から得られた過去の淡水産貝類の形態解析を行い、論文化した。 加えて、貝類一般の形態の多様化が仮説の通り傘型を経由していることを検証するため、統合的な貝類のデータベースであるMolluscabaseを基準として、腹足綱(巻貝類)の各科を単位とし構成する種の巻き型を図鑑や各博物館のオンライン標本データベースを用いて調べた。当初の予定ではCTスキャンによって実際の貝類の形態空間値を取得する予定であったが、現在の状況下では実際に数多くの標本を貸借することやCTスキャンを長期間利用することが困難であると判断したため、文献から類型化してデータを取得した。また上記の形態データ取得の過程で、文献から得た貝類の生態データを用いた共同研究が発表されている。 飼育実験については琵琶湖固有種であるカドヒラマキの飼育が難航しているため、カドヒラマキと周辺のヒラマキミズマイマイから次世代シーケンサーを用いて高密度のSNPsデータを得るとともに、サンプリング地点も増やし、さらに次年度に追加で遺伝子データを得ることを予定している。また、調査により従来サンプルを得られていなかった地域(琵琶湖内の島嶼部、深部)からもサンプルを得られたほか、生態的なデータを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、covid-19の感染拡大が続き、その防止対策のため様々な計画の変更が生じることとなった。特に、飼育実験については、昨年度に引き続き難航し、十分な未交配の成熟個体を得ることが困難であることが判明した。新たなサンプルの入手や年限に難があることから、大規模な遺伝子データを用いた手法に変更し、代替の方法として遂行、遺伝子解析を行った。 また、巻貝を用いた巻き型多様化の機構を明らかにする祖先形質復元・系統比較法では、データの取得・整理を進めた。データの取得と整理は順調に進んでいる一方で、使用する系統樹については巻貝類では全ての分類群を網羅した系統樹がないため、個別の系統樹を結合する方法の適用可能性について検討中である。 上述のように、特殊な社会情勢であり、新たな調査・研究が制限されている中、本年度はこれまで得られたデータを整理・公表することが研究の中心となった。具体的には2報の主著論文と、4報の共著論文が査読付き国際誌に公表された。 総合して、社会情勢や、研究上の障壁のため、一部計画については計画通り進展しなかったものの、状況を受けて柔軟に対応したことで、成果の公表が大きく進むなど、期待以上の進展もあったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度covid-19の感染拡大防止による対策のために行うことが難しかった野外調査・標本調査と、遺伝解析について進める。特に野外調査と博物館の標本調査は本年度はほとんど行えなかったため、傘型種における左右の巻き型の比率の調査を行う予定である。また殻の巻き型の祖先形質復元・系統比較法では本年度整理したデータを用いて、実際に解析を行うことを予定している。遺伝解析については、これまで蓄積したデータに加えて、本年度には外注に出すことが困難であった個体の分を追加し、統合的に解析する。次年度は最終年度であるため、上記のデータを適宜まとめ、論文として年度内に投稿できるように尽力する。 なお、covid-19の感染拡大防止対策の影響が次年度も続き、野外調査・標本調査が難しい場合は、必要最小限の調査とし、状況に応じて現実的に得られたデータを用いた解析を行う予定である。
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