研究課題/領域番号 |
19J00480
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
村串 まどか 筑波大学, 人文社会系, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ガラス玉 / 蛍光X線分析 / 非破壊オンサイト分析 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績の主なものとして①沖ノ島祭祀遺跡のガラス玉類の調査と②韓国・新羅時代の墓から出土したガラス玉類の調査が挙げられる. ①の沖ノ島祭祀遺跡から出土したガラス玉類については,非破壊オンサイト分析による調査を積極的に行った.2019年3月より3度にわたり福岡県・宗像大社にて可搬型蛍光X線分析装置を用いた調査を行い,23ある祭祀遺跡のうち,ガラス玉が出土した7遺跡と沖ノ島出土品と伝えられる計303点のガラス玉類の形態分類,化学組成データを収集することができた.本研究によって,世界遺産にも登録された沖ノ島の祭祀遺跡に奉納されたガラス玉に関する有益なデータが得られた.併せて本年度内では,沖ノ島祭祀に関連する宗像地域のガラス玉の調査も実施した.対象としたのは宗像市に隣接する福津市において,同じく世界遺産に登録された,新原・奴山古墳群から出土したガラス玉類である.同手法により分析調査を行い,現段階で沖ノ島祭祀遺跡出土ガラス玉類と同数程度の測定が終了している.こちらは次年度にも引き続き調査を実施していく. 本年度のもう一つの研究実績として挙げた,新羅時代の墓から出土したガラス玉の調査は,韓国・慶州市にある国立慶州博物館にご協力いただき,先述の沖ノ島祭祀遺跡のガラス玉の調査と同様に現地で分析調査を実施した.この調査では,収集できたデータ数は少ないものの,沖ノ島祭祀遺跡および新原・奴山古墳群のガラス玉にも関係し,韓半島と日本列島におけるガラス玉の流れを知るうえで参考となる重要なデータを得ることができた. 本年度は上記のように韓半島と日本列島における古代交易の中でガラス玉に着目し,その重要なデータや知見が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,沖ノ島祭祀遺跡(福岡県),新原・奴山古墳群(福岡県),新羅時代の墓(韓国・慶州)から出土したガラス玉の調査を実施した.本研究で対象としているガラス玉には複数の組成タイプがあり,その中でも本研究の中心的な対象であるカリガラスは,カリウムを多く含むという特徴があり,主に南アジアや中国南部などで製造され,韓国や日本列島でも出土例が知られる.カリガラスが日本列島に流入する過程で,韓半島と日本列島におけるガラス玉の流れが注目される.本年度収集したこれらのガラス玉のデータは,韓半島と日本列島間のガラスの流れを理解するための重要な基礎データとなる.1年目となる本年度において,上記の地点で出土したガラス玉の調査が順調に進められたのは,本研究の今後の進展に大きく寄与すると考えられる.また,本年度は調査件数にも恵まれ,上記以外に関わった調査で得られたデータも含めれば,共同研究者の協力分も含め500点を超えるデータが得られた. 上記の研究を進めた中で共同研究の幅も広がり,今後の研究を進めるための相乗効果も期待できる.本研究の中で重要な地域のガラス玉の調査を継続的に実施することができ,多数のデータが得られた本年度の進捗状況は良好と考える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は各地のガラス玉の調査を順調に進めることができ,多くのデータを得ることができた.今後の研究でも引き続き韓半島と日本列島(主に北部九州を中心に)のガラス玉の調査を継続させていく.本年度行った北部九州(沖ノ島祭祀遺跡,新原・奴山古墳群)のガラス玉に加えて,対馬や壱岐などのガラスの調査実施を計画している.両島は中国の歴史書『魏志倭人伝』に記載された,朝鮮半島・楽浪郡から日本列島への道のりの過程で登場し,海上交通の中でその存在は認知されていた.そのため,韓半島と日本列島におけるガラス玉の流れにおいて重要と考えられ,以前にも調査を行ったことがある.しかしながら現時点で分析点数が多くはなく,本年度の調査成果に関連してデータの蓄積を進めたい.分析点数を増やすという点においては,国立慶州博物館での2回目の調査も実施を検討したい.さらに,より西のガラスに知見を広げるべく,共同研究者と海外の博物館での調査を検討している. また現状はカリガラスだけでなく,地域や時代に着目したガラス玉のデータ収集に力を入れてきた.そのため今後の研究では新たな研究手法の模索も含め,カリガラスに焦点を絞った研究も展開していきたい.
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