研究課題/領域番号 |
19J00494
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 悠介 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 超重力理論 / 素粒子的宇宙論 |
研究実績の概要 |
本年度は大きく分けて二つのアプローチで研究を進めた。 一つ目は超対称理論におけるインフレーション模型の構築に関するものである。超重力理論の背後にあると考えられている統一理論であるM理論の4次元有効理論に現れるモジュライ場をインフレーションの起源と同定することで、α-attractorと呼ばれるインフレーション模型の実現可能性を検討した。我々はコンパクト化の際に導入するフラックスポテンシャルの選び方により、4次元有効理論における原始重力波の強さが7つの離散値を取り得ることを示した。我々が示した値は近い将来の宇宙背景放射観測などにより検出可能性があり、非常に興味深い結果となっている。 二つ目は重力的粒子生成および曲がった空間における場の理論に関する研究である。本研究の目的である重い超対称粒子の宇宙論的探索には、宇宙初期における重力による粒子生成に関する理解を深めることが必要不可欠である。時間依存する背景場と結合する場の量子論において、自由場が真空から生成される現象が知られていたが、その現象を系統的に記述する方法はあまり知られていなかった。本研究では数学におけるストークス現象が、物理学における真空からの粒子生成現象に対応することに注目し、既知の重力的粒子生成機構をストークス現象の観点から統一的に記述できることを示し、また真空相転移が起こる背景における粒子生成現象に関してもストークス現象の観点から解析した。 また、重力的チャーンサイモンズ項とスカラー場の結合によるレプトン数生成機構において、レプトン数を決定する曲率項の期待値に生じる紫外発散を二通りの方法で解析的に評価し、適切な繰り込みを行なった後のレプトン数は如何なる状況を考えても観測されているバリオン非対称性を説明するには小さいことを指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はM理論に基づく4次元超重力理論におけるインフレーション模型を構成し、模型の特徴的な予言から宇宙背景放射観測による超重力理論の検証可能性を提案するとともに、時間依存する背景場中の場の量子論の系統的な解析手法を進展させることができた。特に真空からの粒子生成をストークス現象により系統的に記述する手法を進展させたことで、初期宇宙の強い重力の効果による超対称粒子生成の可能性を系統的に議論することが可能になった。この手法を基礎として、インフレーションまたはインフレーション後の宇宙における超対称粒子の生成可能性を検討し、宇宙背景放射の揺らぎのスペクトラムといった観測量や宇宙の時間発展における超対称粒子の影響を議論することで、本研究の目的である超対称性の検証可能性を明らかにできると思われる。また、本研究で提案したM理論の低エネルギー理論に基づく超重力インフレーション模型の予言は近い将来の宇宙背景放射観測実験により検証できるため、超重力理論を超えた背後の理論に対する示唆も与える可能性がある。これは超重力理論の検証という本研究の目的を果たすために重要な結果であると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、超対称粒子をはじめとした重い粒子が非自明な背景場の影響により真空から生成される可能性を系統的に記述する手法が確立できることが明らかになってきた。しかしながら、複数の粒子生成現象が起こるような複雑な模型への応用はまだ完成していない。インフレーション後の顕著な粒子生成現象であるプレヒーティングをストークス現象の観点から再解析することは、手法の有効性を検証するのみならず、複雑な背景場の構造がある場合におけるストークス現象の解析手法を確立するために重要な役割を果たすと考えられるので、来年度における一つの課題であると言える。 また、超重力理論の背後にあると考えられる超弦理論・M理論の有効理論に基づくインフレーション模型の構築は、超重力理論の検証において有効であると考えられる。今年度はM理論に基づくインフレーション模型を構築したが、その過程で2B型超弦理論に基づく模型においても、同様の模型構築ができる可能性も見出した。よって、来年度は超弦理論の低エネルギー有効理論におけるインフレーション模型についても議論していく。
|