研究課題
初発時の慢性骨髄性白血病(Chronic Myeloid Leukemia; CML)患者骨髄血から抽出したDNAに対して次世代シーケンサー(Next Generation Sequencing; NGS)で22番と9番染色体の転座ゲノム切断点であるBreak pointを塩基配列レベルで同定した。Break pointは患者ごとに全く異なり、患者特異性が極めて高い配列である。CML治療後の微小残存病変(Minimal Residual Disease; MRD)検出のために最終的にはNGSを用いたが、その値の定量を行うために、PCR(Polymerase Chain Reaction)の中でも絶対定量が可能な手法であるデジタルPCR(dPCR)を用いた。MRDが患者のどの成分の中に含まれているものであるのかを細かく分画化して検索すべく、治療後の患者検体(骨髄血および末梢血)Flow cytometryにて細胞集団ごとにsortingして集め、DNA抽出した。初発時サンプルに対するNGS解析により、15例の患者のうち14例でBreak pointを塩基レベルで正確に同定できた。dPCRでは、RNSPを用いた解析によりすべての治療後フローサイトソーティングを行った微量サンプルにゲノムが含まれていることを確認できた。また、dPCRでは検出できなかったサンプルでも解析精度の向上が見られた。2回PCRを行うことでBCR/ABL1存在頻度の直接定量ができなかった点についても、検量線サンプルをNGS解析時に加えることで定量可能となった。上記の手法の確立を進めたのち、TKI治療中の7名の患者に関して骨髄血および末梢血それぞれを4分画に細分化した集団から抽出したDNAに対してNGSによるMRD解析、およびその定量化を行ったデータをまとめて論文化準備中である。
2: おおむね順調に進展している
臨床検体の収集、また検体のフローサイトソーティングを用いた細胞分画の細分化、さらにその分画に対する患者ごとに特異的な解析系の設計、特異的デジタルPCRおよび次世代シーケンサーなど最新機器を用いたゲノムレベルでの微小残存病変(MRD)の解析といった課題に極めて積極的に取り組んだ。結果として、MRDの残存する分画を最終的に同定することに成功しこの結果をまとめて現在論文投稿準備中である。またこの技術が従来の解析法に比べて極めて特異性が高くかつ新しい手法であること、他の白血病など腫瘍の病勢モニタリングにも応用可能であることから特許にも出願しており現在審査中である。これらの状況を総合して、期待通りの研究進展があったものと考える。
予想外に、患者のデータを総合すると、骨髄の各細胞分画よりも末梢血のX分画がもっともBCR/ABL1検出頻度が高かった。このような結果が得られたメカニズムについては依然として不明であるが、従来TKI中止研究において末梢血BCR/ABL1がmRNAで検出され続ける症例や再燃する症例が問題となっていたものの、その一部は末梢血X分画に残存する細胞での残存である可能性を示唆する。今後TKI中止研究中の患者などについてMRDの挙動をX分画所属細胞を中心として観察を進めていくことで、CMLのMRD残存メカニズムおよび実臨床上における解析および治療ストラテジーの新しい一石を投じることになる可能性があると考える。これらの結果を論文化しつつ、次のステップである残存メカニズム検討、および特許を取得した場合は他の白血病でのMRD検索につなげていく研究も模索していくことを検討する。
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Transplantation Proceedings
巻: 52 ページ: 604-607
10.1016/j.transproceed.2019.10.035.