研究課題/領域番号 |
19J00513
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
羽田 龍一郎 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 宇宙論 / 大規模構造 / バリオン音響振動 / クエーサー / 銀河間物質 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、次世代の広天域銀河赤方偏移サーベイに向けた解析手法を発展させることが目的である。2022年始動予定の「すばる超広視野分光観測(PFS)」プロジェクトでは、銀河の3次元分布に現れるバリオン音響振動(BAO)や赤方偏移歪み(RSD)の測定を通して、宇宙の時空の性質や構造の進化に迫れると期待されているが、暗黒エネルギーの性質やニュートリノ質量等の物理パラメータを精密に測定する上で、観測された銀河(物質)の分布を再構築する行程が重要となってくる。本年度は主に、昨年度までに開発・発展させてきた「iterative algorithm」に基づいた新たな再構築法をシミュレーションから得られた銀河の分布に適用し、BAOの測定精度の評価を目指した。特に、銀河分布の二点相関に対する共分散行列(ばらつき具合を表す)を計算した結果、再構築法を適用しなかった場合と比べると共分散の値は小さくなったものの、従来の再構築法とはほとんど値に差がないことが分かった。また、適宜学会で成果発表を行った。
また、クエーサー周辺の銀河間物質から発されるLyα輝線に注目した研究をスタートさせた。クエーサーからの強力な放射は周囲の銀河間物質の電離状態を大きく変化させるため、「クエーサー光エコー」と呼ばれる領域が生み出されることが分かっている。PFSを初めとする銀河分光サーベイでは、各クエーサーの周辺に視線方向に沿ったスペクトラムが多数得られるため、これを用いて光エコーを検出することで、クエーサーの物理や活動周期に対する理解が進むと期待される。本年度は手始めに、密度一定の中性水素がクエーサーから放射されたLyα光子を散乱するという単純な場合に、PFSにおいてLyα輝線が検出可能かどうかを調べた。その結果、PFSで期待される輝線銀河の数密度とノイズの値に対して、S/N比は1より小さくなることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、iterative algorithmに基づいた新たな再構築法をシミュレーションから得られた銀河の分布に適用し、分布の二点相関に対する共分散行列を計算したが、当初の計画では、その結果を用いて理論モデルのテンプレートとフィッティングを行い、BAOの測定精度の評価するところまで進める予定であった。また一方で、当初の計画にはなかった、クエーサー光エコーの検出に向けた研究をスタートさせることができた。
以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、次世代の銀河赤方偏移サーベイに向けた銀河分布の再構築法の研究については、本年度計算した二点相関の共分散行列を用いて理論モデルのテンプレートとフィッティングを行い、パラメータ推定の評価、そして従来の再構築法との比較を行う。また、小スケールにおける銀河のランダム運動の影響により、赤方偏移空間において分布が視線方向に沿って引き伸ばされて見える「神の指(FoG)効果」は、一般的な再構築法の枠組みでは上手く取り扱えないことが分かっている。そこで、物質分布の再構築を行う前にFoGの効果を補正しておくことで、結果がどのように改善されるか調べる。
また、クエーサー光エコーの検出に向けた研究についても、引き続き、次世代の分光サーベイにおいて光エコーが検出可能かどうか調べる。本年度は、密度一定の中性水素がクエーサーから放射されたLyα光子を散乱するという単純な場合を考えていたが、クエーサーからの放射による光電離に続く再結合を通してもLyα光子は放出され、また、銀河間物質に含まれる中性水素の密度は場所によって大きく変化することが分かっている。今後の研究では、より正確な評価に向けて、これらの影響をきちんと考慮していく予定である。
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