本研究課題では、次世代の広天域銀河赤方偏移サーベイである、すばる超広視野分光観測(PFS)プロジェクトで得られる銀河の3次元分布の解析手法の研究を進めてきた。PFSでは、銀河分布の二点相関関数に現れる特徴的なピークを利用することで、宇宙論的距離を測定し、暗黒エネルギーの正体に迫ることができると期待されている。より精密な距離測定に向けて、銀河(物質)分布を再構築する行程が重要になってくることを踏まえ、本研究では、従来の再構築法を改善させた「反復再構築法」と呼ばれる手法を開発・発展させてきた。特に今年度は、反復再構築法に特有のパラメータの不定性が再構築の結果に全く影響を与えない、また、物質揺らぎの平滑化を非等方的に行うことで理論テンプレートとのフィッティングが改善されるという結果が得られた。これらの結果から、反復再構築法を用いることで、より信頼できる形で距離測定が行えると言える。適宜学会で成果発表を行い、ここまでの結果を踏まえて現在論文を執筆中である。
また、二つ目の研究テーマとして、クエーサー周りの銀河間物質から発されるLyα輝線に注目し、PFSを初めとする将来的な銀河分光サーベイを通してクエーサーの物理や活動周期にアプローチする新たな手法について引き続き検討を進めてきた。本年度は、「Lyα光子の散乱」と「イオン化光子による光電離」という二つの効果を一つの定式化にまとめた上でLyα輝線の強度の推定を行い、光電離の効果がクエーサー周りのLyα輝線の増加に寄与しない、また、クエーサーの近傍(数十Mpc)ではクエーサーとの相互相関が一定になる、という結果を得た。本研究で新たに得られた定式化や関係性は、さらに将来的な観測プロジェクトにおいてクエーサーや銀河間物質の新たな知見を得るための足掛かりになることが期待される。これらの結果をもとに執筆中の論文は、現在まとめの段階に入っている。
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