研究実績の概要 |
昨年度、クラフトリグニンのアルコール性水酸基 (R-OH) に対して高選択的に、炭素数2~8のアシル基を置換する「ワンステップ化学修飾法」を確立した。クラフトリグニン誘導体は、R-OHに導入したアシル基の炭素数に関わらず、高いガラス転移温度 (Tg > 100 ℃) を有し、炭素数4以上のアシル基をR-OHに導入すると、有機溶媒への溶解性と熱成形性を獲得し、自立膜への熱圧加工が可能になることを報告した。また、本反応系は、常圧、80 ℃、2時間の温和な条件下で実施可能であるため、分子量低下を引き起こす副反応の影響は無視できる程度であった。原料クラフトリグニンの重量平均分子量 (Mw) は約9,000 g/molであり、クラフトリグニン誘導体のMwは約10,000 g/molであった。原料自体の分子量が低いため、選択的導入したアシル基の炭素数に関わらず、作製した熱圧膜は全て脆く、クラフトリグニン誘導体単独での材料化には、高分子量化の工程が必要であることが示唆された。 今年度は、クラフトリグニンR-OHの選択的化学修飾法が、炭素数8~16の長鎖アシル基や分岐アシル基であっても適用可能かどうかを検証した。ROOHに対する選択性と高変換率を維持したことから、本反応系の広範な適用可能性を実証したが、導入したアシル基の炭素数の増加に伴い、生成物の析出・回収に適した再沈殿溶媒の選定が難化し、単離収率の低下を招いた。得られた長鎖アシル化クラフトリグニン誘導体は全て、有機溶媒への溶解性が著しく向上した一方、Tg が顕著に減少 (~50 ℃) することを明らかにした。
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