本年度は,ヘテロ型弦理論の“Standard embedding”に基づき,素粒子のフレーバー構造を詳細に調べた.Standard embeddingでは,カラビ・ヤウ多様体のモジュライ場の運動項及び湯川結合を用いて,物質場のフレーバー構造が決定される.本研究では,カラビ・ヤウ多様体のモジュライ空間が持つシンプレクティックモジュラー対称性が素粒子のフレーバー対称性を決定することを明らかにした.特定のカラビ・ヤウ多様性では,素粒子のフレーバー混合の構造を理解する上で有力な非可換離散対称性が実現される.また,CP対称性はシンプレクティックモジュラー対称性の外部自己同型と同一視され,フレーバー対称性とCP対称性は一般化されたシンプレクティックモジュラー対称性として記述されることを示した.
弦理論の有効理論において,物質場の高次演算子に関する研究を行った. 広範なクラスの弦理論のコンパクト化において,物質場の高次演算子が湯川結合の積で決定される事実に基づき,弦模型が“Minimal Flavor Violation”仮説の性質を内包していることを指摘した.モジュライ場が超対称性を破るシナリオでは,超対称性を破る項もシンプレクティックモジュラー対称性を尊重し,超対称性粒子間のフレーバー構造もモジュラー対称性で決定される.現象論的応用として,素粒子標準模型有効場の理論におけるフレーバー物理現象,特にレプトンフレーバーを破る現象に関して大きく制限を与えることを明らかにした.
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