研究課題/領域番号 |
19J00677
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
桑原 夏子 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(SPD) (90873357)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | フランチェスコ会 / ジョット / 葬礼美術 / 典礼 |
研究実績の概要 |
本研究の切り口として、①フランチェスコ会の注文における聖母晩年伝の機能を典拠となったテキストの調査を通して明らかにすること、②葬礼美術における聖母晩年伝の機能を墓碑装飾形式の変化と比較することによって検証すること、③聖母晩年伝が他の物語伝と組み合わさった時の機能を聖堂装飾全体の様子を再現することによって明らかにすること、そして④政治的空間における聖母晩年伝の機能を注文史料の読解を通して詳らかにすること、以上の4つの切り口を設定している。 今年度はそのうち①、②、③の切り口による研究を進展させた。①に関しては、ピサのサン・フランチェスコ聖堂に《聖母のよみがえり》という珍しい主題が描かれていることに着目した。同聖堂で壁画制作の直前に執筆された聖母伝のテキストがあることを発見し、その読解を通して同テキストが壁画の典拠であった可能性を西洋中世学会第11回大会にて口頭報告した。②に関しては、聖母の死の場面と一個人の死の場面を並列させて描いた現存最古のミラノ近郊クレシェンザーゴの聖堂壁画に着目し、聖者と一般信徒の死の場面を並列させるアイディアが、13世紀前半のスペインの墓碑装飾の図像から着想された可能性を早稲田大学美術史学会例会にて発表した。その発表内容は『美術史研究』57冊に掲載された。③に関しては、前年度より予備調査を開始していたムッジャ・ヴェッキアの聖堂壁画に関して、そこに描かれた聖母晩年伝とキリスト復活譚の内容が密接に関わり合っていたことを説教壇の形状を手がかりに考察し、その成果を『鹿島美術研究』36号に発表した。さらに同聖堂の修復完成を記念した講演会にて招待講演を行なった。 以上の実績に加え、14世紀中頃のトスカーナにのみ見られる「聖母の埋葬」の新奇な図像が画家ジョットによって考案されたとして西洋中世学会第11回大会にてポスター報告を行い、オーディエンス賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の遂行のために4つの切り口を設定しており、初年度はそのうち①フランチェスコ会の注文による聖母晩年伝作例と②葬礼美術にまつわる聖母晩年伝作例の2点を重点的に行う予定であった。 現在までの研究進捗状況について、当初の計画以上に進展していると自己評価した理由は、切り口①と②に関する研究成果を口頭発表と論文として公開できたことに加え、次年度に予定していた③他の物語伝と組み合わさった聖母晩年伝作例に関して、ムッジャ・ヴェッキアの聖堂壁画の事例研究を深化させることができたからである。その成果については日本語の論文として発表すると共にイタリアで口頭発表することができた。 また、③の切り口に関しては南イタリアの小聖堂群に描かれた壁画も多く扱う予定だが、南イタリアの作例と関連の深いビザンティン美術の事例研究として、トルコのカッパドキアにて10世紀から11世紀の聖母の晩年にまつわる作例調査を実施できたことも初年度の研究進捗の予定を大きく上回る成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、研究開始以前に設定した4つの切り口にとらわれ過ぎず重要な事例があれば適宜研究課題の対象に加えることで、イタリアにおける聖母晩年伝図像の展開をより詳細に体系づけられると考えている。 また2020年度の研究遂行に関して懸念されるのは、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大により、イタリアでのフィールドワークに困難が生じることである。今年度は特に南イタリアでの作例実見調査を予定しているが、予定を大幅に縮小せざるを得ない場合は関連文献の収集に重点をずらすと共に、南イタリアの小聖堂群に関して研究を行なっているマヌエーラ・デ・ジョルジ氏に協力を仰ぎ、各聖堂内部の写真資料の提供などを依頼する予定である。
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備考 |
本研究に関連して実施した国際共同研究:ラクイラ大学(Universita degli Studi dell'Aquila)のルカ・ペッツート教授と共にラクイラのサンタ・マリア・アド・クリプタ聖堂の研究を行い、聖母晩年伝の描かれた14世紀の壁画を中心に調査を行なった。その成果は国際的共著として2020年度中にイタリア語で刊行される予定である。
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