研究課題
本研究では、南極アイスコア中の硫酸の酸素同位体異常(Δ17O(SO4)値)に基づき、過去の地球における「大気酸化力(各種大気酸化剤の濃度)」を復元することを目的としている。2020年度は、「大気中(エアロゾル試料)で観測されるΔ17O(SO4)値(約1.5‰)に対し、雪・アイスコア中のΔ17O(SO4)値(約3.0‰)が顕著に高い」という沈着後の指標の変質について、その原因を探るため、南極沿岸部(デュモンデュルビル基地)・内陸部(ドームC基地)の2地点におけるエアロゾル試料中のΔ17O(SO4)値の解析を行なった。両地点のΔ17O(SO4)値を比較した結果、夏季に南極内陸部でΔ17O(SO4)値が特異的に高くなる傾向を発見した。同試料中の様々な化学成分とΔ17O(SO4)値の相関解析、および、大気化学輸送モデルによるΔ17O(SO4)値のシミュレーションの結果から、メタンスルホン酸(MSA)という硫黄化合物の酸化により、非常に高いΔ17O値(約12‰)のSO4が生成されることが示された。さらに、このMSAの酸化反応は雪中でも起こっている可能性が従来から知られており、これにより雪中でのΔ17O(SO4)値の変質も説明しうることが今回明らかになった。この発見を国際学術誌において発表した(研究成果[雑誌論文]:Ishino et al., 2021)。並行して、南極浅層アイスコア試料(約2,000年分)のΔ17O(SO4)値の分析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
アイスコアのΔ17O(SO4)値を解釈する上で従来見落とされてきた、大気からの沈着後の指標変質プロセスを解明することができた。計画当初は、プロセスは不明のまま、指標変質の程度を評価するまでにとどまると想定していたため、この発見は期待以上の進展であった。一方で、アイスコア試料のΔ17O(SO4)値の分析は、当初の計画よりやや遅れている。これまでに、コア表面の汚染除去作業、全180試料分を完了した。また、試料中の溶存SO4イオンの精製・分離実験120試料分を完了した。以上から、研究計画全体としては概ね順調に進んでいると評価した。
最終年度にあたる2021年度は、前半までに南極アイスコア試料のΔ17O(SO4)値の分析を完了させる。上述の発見を踏まえ、先行研究で提案されてきた「大気酸化力の変動」に限定しない視点でアイスコアΔ17O(SO4)記録の解釈を試みる。年度後半には、国内外の学会や国際学術誌における成果発表を行う。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
Journal of Geophysical Research: Atmospheres
巻: 126 ページ: e2020JD033583
10.1029/2020JD033583