研究実績の概要 |
簡易で安価な診断技術の発展が予防医療等の観点から望まれるが, このためには生理機能を保ったまま生体分子を保存する技術が重要となる. 生体分子の水和構造を維持し失活を防ぐためには, 保護物質を添加することが有効であることが経験的に知られているが, 添加による保護メカニズムについては未解明な部分も多い. 本研究では, ダイナミクスや物質輸送の測定を通して生体高品位保存のための保護メカニズムの理解に迫ることを目的としている. 初年度の実績を以下に挙げる. (1. 誘電分光システムに関する検討) 生体分子を含む水溶液系における生体分子や水分子のダイナミクスを調べるため, 誘電分光の測定システムの構築を行った. 同軸プローブを用いて周波数領域反射法による測定を温度制御下で行うため, 金属とアクリル樹脂を組み合わせた試料容器を作製した. これを用いて±0.1 Kで試料温度を制御できるようにし, 測定値のばらつきを低減した. (2. 誘電スペクトルの解析方法の検討) 誘電分光の実験で得られた誘電スペクトルについて, Debye型緩和の重ね合わせモデルを用いて解析するための方法について検討し, ダイナミクスを特徴づける誘電緩和時間を算出できるようにした. (3. タンパク質水溶液の誘電スペクトル取得) 誘電分光によりタンパク質(リゾチーム)水溶液の誘電スペクトル取得を行い, 測定システムの妥当性を確認した. また, リゾチームに特異的に結合するN-アセチルグルコサミン三量体を加えた水溶液についても誘電スペクトルを取得し, 複合体の場合とリゾチームのみの水溶液の場合との比較を行った. (4. 生体分子・保護物質間のアフィニティ評価) バイオマーカー酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)について, 乾燥保護作用が期待されるトレハロースやポリリジンとのアフィニティを表面プラズモン共鳴法により調べた.
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