研究実績の概要 |
2020年度の実績を以下にまとめる. (1) 誘電分光システムの測定周波数領域の拡大: これまでベクトルネットワークアナライザ(10 MHz~43.5 GHz)を用いて誘電スペクトル取得を行ってきたが, 特性インピーダンスから大きく離れたインピーダンス測定が原理上困難であることから, 数100 MHz以下の周波数領域における妥当なスペクトル取得が困難な場合があった. 周波数領域を拡大するため, GHz帯までの高確度なインピーダンス測定が可能なRF-IV法によるインピーダンスアナライザ(1 MHz~3 GHz)を導入し, 研究室のインピーダンスアナライザ(40 Hz~110 MHz)も組み合わせた測定システムを構築し, 40 Hzから43.5 GHzの誘電スペクトルを高い信頼性で得られるようにした. (2) 誘電スペクトルの解析方法に関する検討: 誘電分光の実験では誘電率の実部と虚部が得られるが, 誘電率虚部には直流導電率成分が含まれるため解析が困難となる. このため, 誘電率実部からクラマース・クローニッヒの関係を用いて誘電率虚部に変換することで, 直流導電率成分が含まれない誘電率虚部を算出するための手法を確立した. また, 複数の緩和からなるスペクトルに対してDebye型緩和の重ね合わせモデルによるフィッティングを行う際に, 情報量基準を用いることで適切な緩和の数(ピーク数)を決定する手法を確立した. (3) 深共晶溶媒の誘電スペクトル取得に関する検討: タンパク質の安定化作用などが注目されはじめている深共晶溶媒やその水溶液に含まれる水分子のダイナミクスを調べるため, 塩化コリンとグルコース, 塩化コリンとグリセロールからなる深共晶溶媒とその水溶液について, 25 °Cにおける誘電スペクトル取得を行った.
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