研究課題/領域番号 |
19J00720
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田村 可奈 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 肺NE細胞 / 走化性因子 / Neuroendocrine cell / NEB |
研究実績の概要 |
本研究は、肺の機能維持に必要不可欠な肺の感覚器NEBを構成する肺NE細胞 (NE細胞) に着目し、発生期においてどのような制御メカニズムがNEB形成に寄与するのかを明らかにすることを目的としている。ヒトの肺と構成している細胞種や構造が酷似しているマウス胎児肺を用いて、解析を進めている。 まず、E14.5マウス胎児肺およびE18.5マウス胎児肺から上皮細胞のマーカーであるEpcamがポジティブな細胞を回収しシングルセルデータ化したものが先行研究として研究室にあったため、そのデータの詳細解析を行うところからスタートした。それぞれの発生ステージで、どんな種類の遺伝子を、どんな細胞が発現しているかに注目し解析を行った。 初年度、上記の解析により見出されたNE細胞の走化性促進に関わりそうないくつかの候補因子について、特に神経軸索形成の際にその方向性を制御するSlit3やephrinB2、Netrin1がNE細胞以外の細胞にて発現している解析結果が得られたため、これらの因子に着目して研究を進めた。これらの因子が実際にマウス胎児肺のどのエリアで発現がみられるのか解析するため、E14.5およびE15.5の凍結切片を作製し、免疫蛍光染色にて解析を行った。結果、Slit3は頭側の気管支周囲の平滑筋細胞に発現が認められ、ephrinB2はNE細胞以外の上皮細胞全体で発現している様子が観察され、Netrin1は気管支分岐領域から先の腹側の上皮細胞が発現していることがわかった。そこで次に、各因子のノックアウトマウスの作製と、その解析を行うことにした。 現在までに、Slit3のストレートノックアウトマウスとephrinB2の上皮細胞特異的なノックアウトマウスの作製まで進んでいる。さらに、それぞれのマウス胎児肺において、NEBの大きさ異常や形成位置の異常が発生する結果も得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度、シングルセル解析から得られた肺NE細胞(NE細胞)の走化性因子の候補因子が、実際に肺組織中において、どのエリアの細胞が発現しているかの解析が進んだ他、実際に候補因子のノックアウトマウス作製を行い、NEB形成への影響を解析する段階まで研究を進めることが出来ている。 加えて、シングルセル解析から得られたE14.5 NE細胞に特異的に発現している因子の阻害剤を用いた組織培養の結果から、NE細胞が発現している因子によってNE細胞の動きが制御される可能性が示唆された。さらに、その因子がNE細胞に外環境を認識させる働きがあることが報告されていることがわかり、他研究室や他研究機関の研究者の協力を得て、肺組織中における微小環境の違いについて予備実験を行うまでに至っている。 これらのことから総合的に判断し、順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
液性因子がNE細胞の遊走へ与える影響を、マイクロ流路デバイスを用いてライブイメージングを行うことで、より正確かつ確実な情報を得たいと考えている。 現在のところ、Slit3から反発する方向へNE細胞が遊走している可能性が高い。一方Netrin1は、その発現パターンから判断すると、Netrin1を発現する細胞側へNE細胞が遊走している可能性が考えられる。そこでNetrin1のノックアウトマウス作製を進め、解析を行うことで、NEB形成への影響およびNE細胞の遊走を促進する走化性因子かどうか判断したい。 次年度内での論文投稿を目指し、データをまとめたいと考えている。
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