研究課題/領域番号 |
19J00793
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
坂本 達也 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 国立研究開発法人水産研究・教育機構 西海区水産研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | マイワシ / 次世代シーケンサー / 耳石 / 酸素安定同位体比 / 人工知能 |
研究実績の概要 |
日本海側および太平洋側に生息するマイワシの生物量は激しく変動し、その変動は主に環境変動により駆動されると考えられてきたが、具体的なメカニズムは未解明である。日本海側のマイワシ生物量の変動は、太平洋側のそれと比べて、数年遅れだがよく類似したパターンを示すことが知られており、この遅れの原因を解明することで、マイワシ資源変動メカニズムに関する洞察を深めることがこの研究の目的である。初年度の目的は、次世代シーケンサーを用いたDNA分析により、日本海側と太平洋側に分布するマイワシの個体群構造を明らかにし、混合の程度を評価すること、および耳石の化学分析と数値モデルを用いて、日本海側のマイワシの分布域・回遊経路を明らかにすることであった。DNA分析については、2019年の春から秋にかけて、鳥取県、富山県、千葉県、神奈川県沿岸および日本海中部海域、北海道千島列島沖から産卵親魚および当歳魚を各地点数十個体採集し、GRAS-Di解析を実施した。さらに、シーケンシング結果を解析するパイプラインの構築が完了し、混合の程度の評価等、詳細な解析を行う下準備を整えることができた。分布域、回遊経路推定については、これまで開発されてきた単純な2次元回遊モデルから鉛直移動を考慮したモデルへと発展させ、鉛直的な環境勾配が大きい日本海においても適用可能な回遊モデルを構築した。加えて、人工知能分野において用いられる高度な最適化アルゴリズムの実装も行い、計算時間を大幅に圧縮することに成功したことで、日本海各地で採集された2015、2016年における当歳魚の回遊経路を効率的に描き出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年の春から秋にかけて、鳥取県、富山県、千葉県、神奈川県沿岸および日本海中部海域、北海道千島列島沖から産卵親魚および当歳魚を計数百個体採集し、次世代シーケンサーを用いたGRAS-Di法による、ゲノムワイドなジェノタイピングを行った。GRAS-Di解析は近年新しく登場した技術であり、この技術を用いた先行研究の積み重ねが少ないため、新しく得られたマイワシのシーケンシング結果を解析するためのパイプラインを新たに構築する必要があった。これにあたり、一塩基多型を検出するためのプログラムを、計算停止に追い込んでしまう特定の領域の存在が発覚するなど、予想外の障害に直面したものの、試行錯誤の末解析パイプラインを完成させることができ、今後迅速に解析を進めていくことが可能になった。 また、耳石の酸素安定同位体比と回遊モデルに加え、遺伝的アルゴリズム、人工蜂コロニーアルゴリズムといった高度な最適化アルゴリズムを搭載した、新しい魚類の回遊経路推定手法を構築することに成功した。これにより、日本海におけるマイワシ当歳魚の回遊経路を特定することができた。 本研究の最終目的であるマイワシ対馬暖流系群と太平洋系群の比較を実施するためにこれらは不可欠なステップであり、それを着実に進捗させることができたことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
日本海・東シナで生まれたマイワシと、太平洋側で生まれたマイワシでは、夏季の耳石酸素安定同位体比が大きく異なることが明らかになってきたため、これをマーカーとして用いることで、地域間の混合の現状をスナップショットとして明らかにする。これに加え、構築したパイプラインを用いてGRAS-Di法によるシーケンス結果を解析し、長期平均的な混合率を算出することで、日本近海に生息するマイワシの中・長期的な混合の実態を解明する。 また、開発した回遊経路推定方法によって、2014年、2019年といった、日本海側で突如マイワシの現存量が減少した年に、マイワシ対馬暖流系群はどこに分布していたのかを明らかにすることで、マイワシ対馬暖流系群の分布域の年変化を解明する。
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