研究課題
本研究では、室温強磁性が報告されている単層VSe2を高配向性熱分解グラファイト(HOPG)基板上に作成し、その電子構造の観測を通して強磁性発現機構の解明を行うことを目的とした。まず、高品質HOPG基板の清浄化方法を確立させた。HOPG基板は、スコッチテープによる劈開法と超高真空下での長時間アニールを組み合わせることによって清浄化を行った。基板温度を250℃に保ちながらVとSeを共蒸着することで、単層VSe2の作成に成功した。角度分解光電子分光によって観測された単層VSe2/HOPGの電子構造は先行研究の結果と良い一致を示した。しかしながら、強磁性秩序を特徴付ける交換分裂は観測されず、室温で非磁性体であることを示唆する結果が得られた。また、単層から複数層のVSe2を作成することにも成功し、電子構造の膜厚依存性を系統的に測定した。さらに、基板温度を400℃以上に保ちながらV, Se共蒸着を行ったところ、250℃のときとは異なる電子構造が観測された。反射高速電子線回折および低速電子線回折によって詳細な構造解析を行ったところ、高温で成膜した場合、VSe2ではなくV5Se8が形成されていることが明らかとなった。また、低温で成長させた複数層のVSe2を400℃程度でアニールを行うことでもV5Se8が形成されることが分かった。V5Se8はバルクでは反強磁性体であることが知られているが、原子層薄膜における電子構造に関する研究はほぼ皆無であり、今回初めて明らかとなった。今後、第一原理計算と磁気円二色性分光を単層のVSe2とV5Se8について行うことで、より詳細な電子・磁気構造に関する知見を得る予定である。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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