本研究は、既知薬剤に頻出する部分構造を用いた共溶媒分子動力学 (cMD) 法を大規模に実施・評価することで創薬のための共溶媒セットを提案するとともに、cMD法中に得られた立体構造を利用して薬剤結合部位が自明でない標的タンパク質に対する新たな薬剤候補化合物の選別手法の開発を目指すものである。2019年度は、既知薬剤の部分構造を用いた大規模共溶媒分子動力学 (cMD) 法の実施および創薬用共溶媒セットの提案を滞りなく実施し、国際論文誌への投稿の準備を進めている。以下に研究成果の詳細を示す。 【1. 既知薬剤の部分構造を用いた大規模cMD法の実施】 本研究課題では、創薬に実際に活用できる手法の開発を目標としている。創薬に求められる部分構造は既知薬剤にすでに表れていることを指摘し、薬剤分子の部分構造への切断を通して共溶媒の母集団を設計、reedbushやTSUBAME 3.0等のスーパーコンピュータを活用した大規模なcMDの計算を実施した。cMDのパラメータについては複数回の研究発表を通して入念な調査および議論を重ねており、着実な進歩が得られている。 【2. 創薬用共溶媒セットの提案】 項目 1. の大規模cMD計算の結果を用いて、現実的な数の共溶媒セットの構築を行うことが、実際の創薬研究に活用されるためには必須であった。多数のcMD計算の結果を類似度行列の形でまとめた上で、cMD計算結果の類似度と共溶媒の構造的な類似性を検討した。この検討によって得られた類似度閾値の範囲を元に、集合被覆問題と呼ばれる計算科学分野で有名な問題に帰着させ、可変サイズの共溶媒セットを構築する方法を提案した。
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