ヒートショック(HS)転写因子HSF1は通常ヒートショックタンパク質(HSP)と結合して細胞質に存在し非活性化状態であるが、HSにより核内に移行しHS応答配列を持つ遺伝子群を活性化する。この原理を利用し、HSを与えた細胞でのみHSF1を核移行させ、SAMシステムを介して核内のdCas9-sgRNAに結合・集積することにより標的遺伝子の転写を活性化するシステムの開発を試みた。ヒト培養細胞を用いたルシフェラーゼレポーターアッセイの結果、MCP-マウスHSF1(mHSF1)を導入することで1.9倍の活性上昇が見られた。MCP-mHSF1依存的な転写活性化はHSなしの実験群でも見られたが、抗MCP抗体による免疫染色を行なったところ、HEK293T細胞においてはMCP-mHSF1がHS非依存的に核移行している様子が観察され、培養細胞においては条件によりHSF1の核細胞質局在が変化する問題が生じた。したがってMCP-mHSF1の集積による標的遺伝子の転写活性化には成功したが、最適化のための更なる検証にはin vivoの系の必要性が示された。そのためCRISPRを用いたより簡便な新規のトランスジェニック(Tg)手法の開発に着手し、複数の両生類Tgの作製に成功した。さらに光学系により時空間的に細胞のアブレーションが可能なイモリTgラインを樹立し、生殖系列への移行も確認した。開発した手法により人工転写因子の評価のためのTgラインの作製が容易となり、in vivoでのシステムの評価系が作製可能となった時点で研究を終了した。
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