研究課題/領域番号 |
19J00887
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日比野 沙奈 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 癌性腹膜炎 / DAMPs / マクロファージ |
研究実績の概要 |
癌性腹膜炎は腹膜全体に癌細胞が散らばった状態を指し、胃癌や卵巣癌といった腹腔内腫瘍の終末期にみられる症状である。最も特徴的な所見は癌性腹水の貯留であり、患者のQOLを著しく低下させる要因となるが、その治療法は腹水穿刺を中心とした対症療法にとどまっているのが現状である。 癌性腹膜炎患者の腹水には種々のサイトカイン・ケモカインが検出され、骨髄系細胞を主とする免疫細胞が大量に蓄積していることが報告されているが、その意義や機序は十分に明らかになっていない。そこで申請者は、これらの免疫学的事象の起点として、腫瘍進展の過程でネクローシスを起こした癌細胞から放出される免疫調節因子(damage-associated molecular patterns; DAMPs )に着目した。本研究では、腹水の貯留を伴う重篤な癌性腹膜炎を発症する、マウス卵巣癌細胞株ID8の腹腔移植モデルを用いて研究を行い、今年度までに以下の事を明らかにした。; 実験的にネクローシスを起こしたID8細胞の上清中に、腹腔内のサイトカイン・ケモカインネットワークを制御しうるタンパク質が存在することが明らかになった。また、ID8担癌マウスの腹水及び腹膜播種腫瘍中には、CD11b+Gr-1+F4/80+のimmature macrophageと思われる特徴的な細胞集団が大量に浸潤していること、これらの細胞集団がID8のネクローシス細胞上清によって骨髄細胞から誘導されうることを見出した。以上の結果は、腫瘍由来DAMPsが腹腔内免疫微小環境の制御を介して癌性腹膜炎の病態に関与していることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度は、実験的にネクローシスを起こしたID8細胞の上清中から、サイトカイン・ケモカイン誘導活性を有するタンパク質分画の抽出・精製を試みた。所属研究室で既に確立していた、イオン交換及びサイズ排除クロマトグラフィーを組み合わせた方法で研究をすすめたが、目的タンパクの精製フラクションを得ることが予想以上に困難であった。原因としては、目的タンパクの生化学的性質上、クロマトグラフィーによる分離に不向きであることなどが考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
サイトカイン・ケモカイン誘導活性を有する新規腫瘍由来DAMPsの同定に関しては、密度勾配遠心法などクロマトグラフィー以外のタンパク質分画法を現在検討しているところである。目的タンパクの精製に成功したならば、質量分析を実施し、その同定をすすめていく。 また、前年度に見出した、ID8担癌マウス腹腔内に大量に蓄積するCD11b+Gr-1+F4/80+のimmature macrophage細胞集団は、定常状態の腹腔内やその他のマウス癌細胞皮下移植モデルの腫瘍組織内では殆ど検出されなかったことから、癌性腹膜炎の病態における特異性や、病態形成への深い関与が示唆される。そこで今年度は、1細胞遺伝子発現解析を実施し、この細胞集団に特徴的な転写因子やシグナル経路を抽出することでその特徴を明らかにする予定である。
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