低分子生理活性物質であるポリアミンは、あらゆる細胞種において細胞内在性の増殖因子として機能し、特に悪性腫瘍のような活発に増殖する組織中に非常に高濃度で存在することが知られている。癌患者の血清や尿、唾液といった生体試料中にも、ポリアミン類が健常個体と比べて顕著に高濃度で検出されることが報告されているが(Casero et al. Nat Rev Cancer. 2018)、これらの“細胞外”ポリアミンが腫瘍進展において何らかの病態生理学的意義を持つかどうかは明らかになっていなかった。 興味深いことに、我々の最近の研究により、死んだ癌細胞から放出されるポリアミンが、腫瘍局所においてエフェクターT細胞機能を抑制する免疫チェックポイントとして機能し、癌免疫療法の新規治療標的として有効である可能性が示された。具体的には i) 低酸素や低栄養といった過酷な環境ストレスに曝露された癌細胞は、細胞死に伴いポリアミンを腫瘍間質のような細胞外空間に放出すること、ii) 細胞外ポリアミンは、T細胞受容体(T cell receptor: TCR)下流近傍のシグナル伝達の阻害を介してT細胞のエフェクター活性を負に制御すること、iii) ポリアミン合成阻害剤はin vivoで抗腫瘍T細胞応答を活性化し、免疫チェックポイント阻害療法 (Immune checkpoint blockade; ICB)と併用することで、ICBに抵抗性の腫瘍モデルに対しても相乗的な優れた抗腫瘍効果を誘導すること、を主にin vitroの実験系やマウスモデルを用いた検討により明らかにした。今後も引き続き、細胞外ポリアミンを標的とした新規癌免疫療法の臨床応用へ向けたproof of conceptを得ることを目標に研究を進めていく予定である。
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