研究課題
本研究の目的は、活動銀河核(AGN)とcircum nuclear disk(CND)での星形成の両者が活発なAGN-星形成compositeの性質の調査である。そのために、近傍のAGN-星形成compositeについて、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)でミリ波領域の一酸化炭素(CO)ガス純回転輝線を観測し、ジェームズ・ウェッブ 宇宙望遠鏡(JWST)で近赤外線領域のCOガス振動回転吸収線・CO氷吸収バンドを観測することを予定していた。しかし、JWSTは試験の遅れによって打ち上げが延期された。そこで今年度は、既存のデータを元にした研究を主に行った。 まず、埋もれたAGNと活発な核周星形成を擁する超高光度赤外線銀河IRAS 17208-0014について、CO(6-5)回転遷移のALMA観測データを解析し、このラインがAGNの位置において吸収線として観測されることを発見した。その結果を赤外線天文衛星「あかり」で観測されたCO振動回転吸収線と比較し、後者の吸収が中心核近傍で生じている可能性が高いことを確かめた。以上の結果は投稿論文として準備中である。次に、本研究の観測手法がJWSTよりさらに先の宇宙望遠鏡として計画されているSPICAで適用された場合、どのようなサイエンスが可能となるかを検討し、そのマイルストーンとしてJWST観測が持つインパクトを評価した。この結果は関連する学会・研究会で発表した。最後に、JWSTに対して確実に観測提案を通すため、JWSTの技術仕様・観測検討ツールに関するワークショップに参加し、ノウハウを専門家から直接学んだ。JWSTに日本の宇宙機関は公的には参画していない。日本人研究者は不利な立場にあり、それを覆すために知識の習得は肝要であった。なお、得た専門知識は、日本人向けのワークショップを開催することで、日本のコミュニティーへ還元した。
2: おおむね順調に進展している
JWST計画自体が申請時点よりも遅れているものの、既存のデータを利用することで、埋もれたAGNを持つIRAS 17208-0014の研究を着実に行なった。これは本来予定している研究内容の準備ともなる成果である。国内外の学会・研究会での発表も複数回行った。また、高い競争率が予想されるJWSTに対して確実に観測提案を通すために、主体的に専門知識・スキルの習得に努めた。これは今後の研究計画を遂行するために不可欠なステップであった。さらに、JWSTのさらに先を見据えた、SPICA宇宙望遠鏡でのサイエンス検討も行った。この検討を行ったことで、JWSTがマイルストーンとして持つインパクトを発掘できた。この成果は、今後のJWST観測公募において、より競争力のある観測提案を作成するための一助となると期待できる。
これまでに行ったIRAS 17208-0014の研究については、より多角的な議論を行ったのち、迅速に出版するよう努める。JWSTについては、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって観測公募がさらに延期される可能性が危惧されてはいるが、国内外の研究者と協力して期限までに可能な限りの検討を行い、確度の高い観測提案を作成するという方針は変わらない。JWSTの打ち上げおよび公募が遅れる場合には、「あかり」のアーカイブデータを用いて研究を行う。JWSTのように個別天体の詳細な議論はできないが、統計的な議論を行える。
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