研究課題
本研究の目的は、活動銀河核(AGN)とcircum nuclear disk(CND)での星形成の両者が活発なAGN-星形成compositeの性質の調査である。そのために、近傍のAGN-星形成compositeについて、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)でミリ波領域の一酸化炭素(CO)ガス純回転輝線を観測し、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で近赤外線領域のCOガス振動回転吸収線・CO氷吸収バンドを観測することを予定していた。しかし、新型コロナウイルスによる情勢の混乱もあり、ALMAの運用およびJWSTの打ち上げは大幅に延期された。そこで今年度は、既存のデータを元にした研究を主に行った。まず、埋もれたAGNと活発な核周星形成を擁する超高光度赤外線銀河IRAS 17208-0014について、ALMAで観測されたCO純回転輝線/吸収線、赤外線天文衛星「あかり」で観測されたCO振動回転吸収線をもとに、中心領域の構造と状態を議論した。この結果は論文として学術誌に投稿済みであり、現在レフェリー対応中である。国内外の学会・研究会での発表も複数回行った。CO純回転遷移が吸収線として受かったという結果、そしてそれを振動回転遷移と比較するという議論は他に例の無いユニークな研究である。11月に実施されたJWSTの第1回観測公募では、代表者として観測計画を提出し、1本が採択された。これは近傍の明るい銀河を近赤外線領域で面分光する計画である。JWSTの性能は従来の望遠鏡を凌駕するものであり、得られるデータはAGNおよびCNDの性質を調べるのに強力に役立つと期待できる。なお、JWSTは日本の機関が公的には参画していないミッションであり、そのノウハウに関して日本人研究者は不利な立場に置かれている。その逆境を覆し高倍率の公募を突破したことは、日本の存在感を示す重要な成果となった。
2: おおむね順調に進展している
ALMAおよび「あかり」の観測による研究結果を主著査読論文として学術誌に投稿済みであり、レフェリーレポートに基づき改訂中である。さらに、「あかり」の観測結果に基づく論文も責任著者として学術誌に投稿し、同様に改訂中である。これらは着実な成果である。国内外での成果発表も複数回行った。また、JWSTの第1回観測公募では代表者として観測計画を提出し、1本が採択された。JWSTによる観測は本課題の当初からの計画であり、それを達成したのは堅実な成果であると言える。不利な立場にある日本人研究者として高倍率の公募を突破したことは、JWSTのノウハウを主体的に身につけた前年度までの活動が実を結んだ着実な成果であると考えている。
まず、現在筆頭著者、責任著者として投稿中の2本の論文を、レフェリーレポートに対応し迅速に出版する。次に、JWSTの打ち上げが延期されたために観測が採用期間中に行われない代わりに、「あかり」のアーカイブデータを用いて研究を行う。JWSTのように個別天体の詳細な議論はできないが、統計的な議論を行える。そして、来るJWST観測に向け、データを較正し結果を解析するためのコードなどの環境を模擬データを使い整え、観測後すぐに議論に移れるように準備しておく。
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すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)