研究課題/領域番号 |
19J00894
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大塚 慶吾 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / マイクロ・ナノデバイス / ナノ構造物性 / 光物性 / ナノ材料操作 |
研究実績の概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)を単一光子源やオンチップ光回路の高効率な光源として組み込むために、多数のカーボンナノチューブから所望の構造を持つものを探し個別に配置する手法を研究した。 本研究において、昇華性の有機分子単結晶をスタンプの表層に用い、合成したCNTを拾いあげ、その後CNTを表層の分子結晶とともに目的の基板上に転写する手法を考案した。穏やかな加熱により有機分子は昇華するため、基板上に溝が刻まれている場合には直径1 nmのCNTが破壊されることなく溝を架橋した構造を維持できる。結果として清浄で高効率発光するCNTを任意の位置に移動させることができる。 当該年度は、その目的に適した有機分子を選定した。アントラセンはCNTと同様にベンゼン環からのみなる分子である。CNTと高い相互作用を持ちつつも比較的低温で昇華するため、効率よくCNTを拾い上げること、そしてCNTを清浄に保ちつつ架橋構造を得るのに適している。まずCNTの操作に適した結晶を得るため、アントラセンの大面積薄膜結晶を成長する条件を明らかにした。この分子結晶を介して、従来のアプローチと比べて10倍程度の長尺CNTをSi基板に転写し、溝へと架橋させた。合成直後の高品質な架橋CNTと同程度の明るい蛍光が得られることを確認した。さらにCNTをガラスやポリマー、さらに六方晶窒化ホウ素などの様々な基板上に転写し、その発光特性を調べることで、より堅牢なCNT光デバイスを構築するためのプラットフォームの探索を効果的に進めることができた。 また操作中に直径1 nmのCNTを可視化するため、上記のスタンプ機構を顕微分光計測装置へ組み込み、所望のCNTをサブミクロン精度で配置可能になった。このような操作を繰り返すことで、例えば互いに交差するCNT間でのエネルギー輸送を光学的に観測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(1)単一CNTの操作手法を確立、(2)電流励起の発光デバイスへの組み込み、(3)シリコンフォトニクス等への結合によるオンチップ回路の実証の3ステップに分けて計画していた。 適切な分子の選定から始まり、実際に所望の特性を持つ単一のCNTを選び目的の位置に配置することを示しており、本年度は(1)を実現することができた。これにより(2)の光電子デバイスへ着手することができるようになったことからも、順調に研究が進展していると言える。加えて、CNT操作手法から派生して、2本のCNTを緻密に操作し交差構造を形成することで、理想的な単一界面における励起子の振る舞いの計測可能性を示すことができ、新たな研究の萌芽へと繋がっている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に発展させたCNT操作手法に基づいて、電流注入型の素子の作製とその性能評価、また素子構造の最適化へと進展させていく。同時に、後述する実験の要求に応じて操作手法そのものも柔軟に修正する。 電子・正孔注入を正確に制御する技術的課題に加え、発光に寄与する励起子の形成過程に対する理解不足もあり、先行研究の報告例が少ない。特に本研究課題で掲げるような高効率発光を目指す場合、そのpn接合の形成方法などを含めた素子構造を模索する必要がある。そこで個別のCNTを選び操作することができることを生かし、単一のCNTから発光素子を作製し、その電流電圧特性と発光特性を1対1に比較し、正確な発光効率を導き出すことはその目標に向けた重要なステップだと考えている。また、長尺のCNTを用いることで、同一のCNTから構造を異にした多数の発光素子を作製・比較可能となり、そのデバイス物理の解明につながる知見を抽出する。 上記と並行して、本操作技術を駆使してCNTと光共振器を結合し、その光学特性を評価するだけでなく、それに基づいて空間的・スペクトル的に高効率な結合への設計指針を提案し、実現することを目指す。例えば、単一のCNTを操り、プローブとして走査することで、微小光共振器の空間プロファイルが計測可能になるはずである。このようにして、次年度のオンチップ光回路の動作実証への準備を進める予定である。
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